CLILとCBIの違い
この記事では、言語教育で使われるCLILとCBIの違いについて説明します。
2つとも、「言語学習」だけでなく、「学習内容」にも重点を置いているという点で、非常によく似ています。
なお、CLILとCBIは以下の略語です。
CBI:Content-Based Instruction(内容重視の教授法、内容重視型学習、内容中心教授法)
CLILのほうは、「クリル」か「内容言語統合型学習」という訳語が定着しつつあります。
CBIのほうは、日本語訳は「内容重視の教授法」「内容中心教授法」など訳にもかなりばらつきがあります。
勿論、細かい違いは色々あげられていますが、何が大きく違うのかというと、二つが生まれた背景が違います。
CBI:1980年代にアメリカで発展したもの。
CLILの生まれた背景と特徴
CLILの生まれた背景
CLILは、1990年代にヨーロッパで生まれた概念です。
EUはお互いの文化・言語を尊重すること、そして多言語・多文化主義を基本原理としています。
ヨーロッパではかねてから、どう国境を越えた「ヨーロッパ」市民を形成し、多文化・多言語主義を推進していくかが議論されてきました。
言語学習は多文化・多言語主義推進の中核をなすものです。1990 年代には、すべてのヨーロッパ市民が「母語」以外に 2 言語を話せるようになろうという長期的目標も設定されています。
こういった文脈の中、CLILは、科目横断的に言語を学ぶ教育法として注目されるようになります。
CLILという用語自体は、1994 年、フィンランドユバスキュラ大学のDavid Marshが提唱しました(訳は参考訳)。
CLIL refers to situations where subjects, or part of subjects, are taught through a foreign language with dual-focused aims, namely the learning of content and the simultaneous learning of a foreign language. (Marsh 1994)
CLIL とは、内容学習と外国語学習を同時に学ぶという2つの目標を持って、教科または教科の一部が、外国語を通して教えられる状況のことである。
1990年代後半以降、活発に議論され、教授法として受け入れられるようになります。
なお、CLILは、カナダのイマージョンプログラムやアメリカのバイリンガル教育(CBIも含みます)の影響を受けています。
イマージョンプログラムとは、言語を言語のクラスで学ぶのではなく、数学・理科・社会などの教科のすべてまたは一部をその言語を使って学ぶことで、言語も伸ばすというプログラムです。
これらのプログラムは、批判はあるものの、一定の効果を出すとして評価されています。(詳しくは「イマ―ジョンプログラムの種類と成功の要因について」などをご覧ください。)
なので、これらの教育法をヨーロッパの外国語教育で応用していこうとしたといえると思います。
CLILの特徴
CLILは、「言語学習」そのものを目的するのではなく、社会問題などの「内容」の学習を通して、言語も学び、そして思考力も高めるということに重きを置いています。
また、CLILの特徴は、4Cという4つのCを提示していることです。(日本語訳は奥野(2018, p. 20)のものです)
- Content(内容)
- Communication(言語知識・言語使用)
- Cognition(思考)
- Community/Culture(協学・異文化理解)
この4つの要素を意識的に取り入れながら、クラスを計画的に設計するのがCLILの特徴です。
CLILについては、「内容言語統合型学習(CLIL)とは何か?CLILの「4つのC」について(Content, Communication, Cognition, Community)」でもう少し詳しく説明しています。
ご興味のある方は、そちらもご覧ください。
CBIの生まれた背景と特徴
CBIは、1980年代のアメリカの、第二言語としての英語(ESL)教育の文脈の中で発展したものです。
CBIもカナダのイマージョン教育を起源としています。
1980年代のアメリカの言語教育では、意味重視のコミュニカティブ・アプローチが盛んになっていました。
(詳しくは「コミュニカティブ・アプローチの特徴とその批判について」もご覧ください。
この一環で、イマージョン教育を参考に、言語学習のみならず、内容学習も同時に行おうという流れが出てきました。
CBIは様々な定義がありますが、Wesche (2012)は、CBIのことを以下のように言っています。
a form of communicative language teaching in which language instruction is integrated with school or academic content instruction
学校・アカデミックな内容学習と、言語学習を統合した、コミュニカティブな言語教授法の一形態
コミュニカティブ・アプローチの一環という形で考えられているようですね。
CBIの種類
CBIの特徴は、内容重視のカリキュラムで、内容学修と言語学習を同時に行うというものです。
ただ、一口にCBIといっても、言語と内容のバランスは多種多様です。
Snow (2014)は、CBIを内容を重視するか、言語を重視するかによって、5つのモデルを提示しています。
①に近いほうがより内容重視で、⑤に近いほうがより言語重視な教授法になります。
- total immersion:完全なイマージョン教育
- partial immersion:一部イマージョン教育
- sheltered courses:教科学習を非母語話者のみを対象に行うもの。
- adjunct model:専門科目の教師が母語話者・
非母語話者両方に科目を教えるが、非母語話者は言語教師による言語クラスも同時に履修する。 - theme-based courses:言語教師が行う内容重視の言語コース。テーマに沿ってカリキュラムが組まれる。
①②はイマージョン教育ですね。イマージョン教育では、学習言語を使って教科を学びます。基本は言語についての指導はありません。
③のsheltered coursesでは、学習言語を使って教科を学びます。クラスを担当するのも教科の先生で、言語の先生ではありません。
ただ、イマージョン教育との違いは、クラスメートが全員非母語話者ということです。
クラスメートが非母語話者なため、先生もある程度調整してくれるでしょうし、ディスカッションをする際にも心理的な負担が軽くなります。
④のadjunct modelは、専門科目の授業は母語話者と一緒に受けるのですが、非母語話者には別途言語クラスもあり、そこで言語のサポートも受けられるというものです。
⑤のtheme-based cousesは、言語クラスの一形態です。ただ、カリキュラムがテーマに沿って組まれています。
例えば、日本語上級者向けに「日本事情」のコースを開講しているところも多いですが、「日本事情」という内容に沿ってカリキュラムが組まれているので、theme-based coursesの例になります。
2021年に「めしあがれ: 食文化で学ぶ上級日本語」という教科書も販売されました。
これも「食文化」という内容をベースに組み立てられた教科書なので、この教科書に沿ってクラスを行った場合も、theme-based coursesになりますね。
とはいえ、あくまで言語クラスの一環なので、①~④に比べて言語の比重が高くなっています。
まとめ&もっと詳しく知りたい方は
この記事では、CLILとCBIの違いについて、説明しました。
どちらもカナダのイマージョン教育に影響を受けて生まれたものです。
それに、やり方は色々あるにせよ、学習内容を重視しているという点でも似通っています。
ただ、大きな違いは、冒頭でも述べましたが、以下になります。
CBI:1980年代にアメリカで発展したもの。
言語教育関連の学会でも、北アメリカで教鞭をとっている先生の発表では「CBI」がよく出てきている印象です。
何かのお役に立てれば幸いです。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
- 内容言語統合型学習(CLIL)とは何か?CLILの「4つのC」について(Content, Communication, Cognition, Community)
- イマ―ジョンプログラムの種類と成功の要因について
- コミュニカティブ・アプローチの特徴とその批判について
CLILやCBIについては以下のような本も出版されています。
コンパクトにまとまっていて読みやすいです。さっと概要を知りたい人にお薦めです。
↑これは3巻まであって、1巻が原理・方法、2巻が実践・応用、3巻が授業・教材になっています。
もし授業などでCLILを取り入れたいという人がいれば、おすすめです。
言語教師と教科を担当する教師の両方にCLIL指導について説明する本です。CLILを提唱したDavid Marshも執筆しています。
この本の中で、SnowがCBIについて述べている章があります。
CBIにクリティカルな視点を取り入れた「内容重視の批判的言語教育」の本です。理論と日本語教育での実践がまとめられています。