Cumminsの相互依存モデル、BICSとCALPについて、昔のメモが見つかったので記録しておきます。
Cumminsの相互依存モデル
1970年代頃は、二つ以上の言葉で子どもを育てると言語間で混乱が生じるのではないか、とバイリンガル教育の是非が問われていました。
これに反論を唱えたのがCummins(1979)で、彼が提唱したのが相互依存モデル(iceberg model of language interdependence)です。
L1、L2は第一言語、第二言語の略で、この図の黄色い部分がこれが普段の生活で表出する言語能力のことです。
これ以外にも水面下(目に見えない部分)言語能力の根っこの部分には共有している部分(Common Underlying Proficiency(CUP))があるとCumminsは提唱しました。
そして、第一言語(L1)が発達することで、第一言語で培った能力が第二言語(L2)にも転移し、第二言語の学習も助けられるといいました。
つまり、L1とL2がバランスを保って発達することが学力的な発達に好影響を及ぼすといったのです。
BICS/CALP
また、Cummins(1984)はBICSとCALPという概念を提示しています。
- BICS(Basic Interpersonal Communicative Skills(対人伝達言語能力))
日常の会話能力のことです。高い認知能力を必要とするものではなく、日常の場面に密着した(context-embeddedと呼んでいます)言語使用のことです。第二言語学習者の場合は2年ぐらいで習得できるといっています。
- CALP(Cognitive Academic Language Proficiency(認知・学習言語能力))
学問的な思考をするときに必要な言語能力のことです。抽象的な事柄などを考えていかなければならないため(context-reduced)、認知的な負荷が高くなります。第二言語学習者の場合はこの能力の習得には5年―7年ぐらいかかるといっています。
Cumminsの功績
Cumminsはバイリンガリズム教育・政策に大きな影響を与えました。
まず、移民のこどもなどの母語の重要性を理論的にサポートしたことがあげられます。
移民の子どもの言語教育を考えるにあたって、「母語教育をすると、第二言語の習得が遅れるのでは?」「家庭で母語で話していていいのだろうか」などという懸念する保護者、さらに、「家庭で母語を使わないように」と指導する学校もあったようです。
こういった懸念に対し、彼のモデルを使って、母語教育をすることで第二言語の獲得にも好影響を及ぼす、ということが説明可能になったのです。
さらに、日常会話だけでは不十分だと理論的に述べたことも大きな功績の一つです。
移民のこどもの場合は、移住して2年ほどで、だいたい日常会話はできるようになる児童が多いのですが、それが必ずしも学校の成績に反映されないということが多々あります。これに対しても、BICS・CALPの区別を基に、普段の日常会話だけではなく、抽象的な事柄も扱えるような言語能力(CALP)を身に着けさせる必要性があるのだ、と学校・保護者を説得できるようになりました。
もっと興味のある方は
Cumminsの論文をまとめた書籍も発売されています。
- Cummins, Jim, Colin Baker, and Nancy H. Hornberger, eds. An introductory reader to the writings of Jim Cummins. Vol. 29. Multilingual Matters, 2001.
日本語の文献だと、Cumminsと共同論文も出版したことのある中島の本にわかりやすくまとめられています。
- 中島和子. (2013). バイリンガル教育の方法 増補改訂版. アルク.
また、Cumminsは1990年代からは言語能力をCF(会話の流暢度)、DLS(弁別的言語能力)、ALP(教科学習言語能力)の3側面に分けて考えるようになります。
それについて興味のある方は以下の記事もご覧ください。