「英語で教える」コース(English medium instruction(EMI))とは?大学でのEMIの3つのモデル・課題について

EMIの定義

EMIは、 English medium instructionや、English-medium instruction、English as a medium of instruction、English as the medium of instructionなどの略で、「英語を学ぶ」言語のクラスではなくて、教科を「英語で教える」クラスです。

日本語では「教授言語としての英語」などと翻訳されています。

EMIの定義はいろいろありますが、Macaro(2018, p. 19)では以下のようにEMIを定義しています。

the use of the English language to teach academic subjects (other than English itself) in countries or jurisdictions where the first language of the majority of the population is not English

マジョリティの人口の第一言語が英語でない国または地域において、アカデミックな教科(英語そのものを除く)を教えるために英語を使うこと

日本や韓国、タイなどではマジョリティの人口の第一言語は英語ではないので、日本、韓国、タイなどで英語でアカデミックな教科を学んだ場合は、EMIとなります。

一方、イギリスやアメリカなどでは、マジョリティの人口の第一言語は英語になります。Macaro(2018)の定義だと、もし日本語母語話者がイギリスやアメリカに留学して、英語で教科を学んだ場合はEMIとは言いません。

大学でのEMIのモデル

EMIは初等・中等教育や高等教育で行われています。特に、近年、様々な国・地域で、EMIを一部・全部で実施する大学が増えています。

日本でも、日本の高等教育の国際通用性と国際競争力を向上することを目的に行われているスーパーグローバル大学創成支援事業(2014年から2023年)などの取り組みを通して、EMIコースを設置する大学が増加しています

とはいえ、英語で今まで教科を学んでいなかった学生が、突然大学で英語で教科を学ぶことは至難の業です。

なので、EMIを導入する大学は、様々な語学サポート等を行っています。

Macaro et al (2018)は高等教育でよく存在するEMIのモデルとして、以下の3つをあげています。(日本語は仮訳です)

  1. Preparatory year model(準備期間モデル)
  2.  Institutional support model(大学サポートモデル)
  3.  Pre-institutional selection model(選抜モデル)

この3つについて以下簡単に説明します。

Preparatory year model(準備期間モデル)

このモデルは、1年ほど準備期間として、アカデミックのために必要な英語やスタディスキルを集中して学ばせるものです。

世界中で行われていますが、特にトルコや中東諸国でよく見られます。

主に国内の学生で、英語力がそれほど高くない学生を対象にしていることが多いです。

このモデルのメリットとしては、1年間しっかりアカデミックな分野に特化した英語を学ぶことで、アカデミックなリンガフランカである英語を使う力を学生たちが身に着けることができることです。

ただ、逆に普段の生活での英語力はあまり身に着かないという課題もあります。

Institutional support model(大学サポートモデル)

これは、教科の内容を多少簡単にしたコースを履修したり、English for Academic Purposes(EAP)やEnglish for Specific Purposes(ESP)などの英語クラスを履修したりと、特に最初の1,2年に大学の語学サポートを受けながら学ぶモデルです。

学年があがるにつれ、徐々にそのサポートがなくなっていきます。

英語力は高いけれど、言語のサポートがある程度は必要という学生を対象にしています。

ヨーロッパや、中国、日本、ブラジルなどで導入されているモデルです。

このモデルのメリットとしては、あくまでサポートを提供するという形なので、もともと実施したかった大学でのカリキュラムを変更せずに行える点があげられます。

The pre-institutional selection model (選抜モデル)

これは、英語圏の大学に留学する場合と一緒で、事前に英語力で選抜試験を行い、十分な英語力を持った学生のみを受け入れるモデルです。

語学のサポートがある場合もありますが、最低限に抑えられています。

オランダやスウェーデンなどすでに英語力が高い学生が多い国・地域で取り入れられているモデルです。

 

なお、EMIのモデルについては、Macaro (2022)で新たなモデルも提唱されています。

EMIの課題

EMIの課題としては以下のようなものが挙げられています(Wilkinson, 2013Bradford & Brown 2017)

  • 第一言語がアカデミックな言語として使えなくなる。
  • 英語力が十分でないため、教科の知識の学びが浅くなってしまう。
  • 主に国内の学生向けのプログラムの場合、英語を話す環境があまりなく英語力がそれほど伸びない。
  • 英語のレベルが様々な学生が在籍しているため、カリキュラム・コースデザインを考えるのが大変。
  • 教科を教える教師と語学教師との連携をとるのが難しい。

まとめと参考文献

この記事では、EMIの定義と高等教育機関におけるEMIのモデル、EMIの課題について簡単に紹介しました。

参考にした文献は以下のとおりです。

↑EMIの定義や、言語政策とEMIとの関係、教師や学生の視点、EMIのコスト効果、実際のEMIのクラスでのインタラクションなど、EMIに関する様々なトピックを網羅しています。

↑日本の高等教育におけるEMIの現状や課題などを紹介しています。

↑中国、フィンランド、イスラエル、オランダ、南アフリカ、スペイン、アメリカなど様々な国・地域でのEMIについて紹介しています。

 

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