文化的レファレンスとは
文化的レファレンス(Cultural references)というのは、ある文化に特有の概念で他の言葉には翻訳しづらいものを指します。
「銀座」「新宿」などは文化的レファレンスの例で、日本で生まれ育った人や住んだことがある人だとある程度イメージがわきますが、そうでない人は言葉だけ聞いてもイメージがわかず、そのまま「Ginza」「Shinjuku」と翻訳してもその言外の意味がなかなか伝わりません。
文化的レファレンスの他の例としては、「神棚」「ラジオ体操」「妖怪」「こたつ」「お座敷」なども入るのではと思います。
字幕における文化的レファレンスの翻訳方法
- Pedersen, Jan. (2011). Subtitling norms for television. Amsterdam: John Benjamins.
Pedersenは上記の本で、100の英語のテレビ番組・映画のスウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語の字幕コーパスを分析し、文化的レファレンスが字幕でどのように訳されているかを調べました。
(なおPedersenは、「Extralinguistic Cultural Reference(言語外文化的レファレンス)」という言葉を使っています。言語を使って、言語以外のもの(文化的な事項や事象)を指すからだそうです。)
6つの方略
その結果、以下の6つの方略があったそうです(第4章、主にp. 74-77)。今回は例として、英語の番組で「Harvard」という言葉が出てきて、それを日本語字幕にすると仮定して考えてみます。
- 保持(Retention)(原文をそのまま使うこと)―「Harvard」または「ハーバード」とそのまま字幕に書く
- 詳述(Specification)(説明をつける)-「ハーバード大学」と「大学」をつけて詳述する
- 直訳(Direct Translation)これはHarvardの例だとできないですね。「山田さん」の「さん」を「Mr. Yamada」と翻訳するなどがこれにあたるのだと思います。
この上記の3つは原文である起点言語(source language)の文化を尊重した翻訳なので、起点志向の翻訳方略と呼んでいました。
- 一般化(Generalization)「Harvard」を「大学」と一般化して訳す
- 置き換え(Substitution)「東京大学」など違うものにする
- 省略(Omission)訳さない。
この4~6は目標言語(target text)の文化に合わせようとしているので、目標志向の翻訳方略になるといっていました。
それから、方略とはいえないのですが、「公式等価(Official equivalent)」というものもあって、これはもう既に公的機関によって翻訳が定められていたり、人工に膾炙している翻訳がある場合のことをいうようです。
方略に影響を与える要素
第5章では、翻訳者の翻訳方法に影響を与える要素として以下のようなものを挙げていました。
- Tranculturality(超文化性):他の文化でその文化的レファレンスがどの程度理解されうるか、知られているか
- Extratextuality(外テキスト性):文化的レファレンスがどの程度、言外の意味を持つか
- Centrality(中心性):マクロ・ミクロレベルで文化的レファレンスがどの程度重要なものか
- Polysemiotics(複記号性):他の映像などとの関係
- Co-text(共時テキスト):他の前後のテキストとの関係
- Media-specific constraints(メディア特有の制限):メディア特有の制限(話し言葉を書き言葉にするときの文字数制限など)
- Subtitling situation(字幕の状況):ジャンルや目的、会社のスタイルなどその他の状況