会話分析とディスコース分析の違いについて

会話分析・ディスコース分析

ディスコース分析を学び始めると、最初に会話分析、談話分析、ディスコース分析といろいろな用語が出てきて、何がなんだかわからなくなります。

これについて(私が理解している範囲で)まとめておきます。この記事を書く際に参考にしたのは以下の本です(ただ、参考にしただけなので、あくまで私の理解です)

  • Wooffitt, R. (2005). Conversation Analysis and Discourse Analysis: A Comparative and Critical Introduction. London: SAGE Publications.

 

会話分析

会話分析は1970年頃から盛んになりましたが、その創始者は以下の3名と言われています。

  • Emanuel Schegloff
  • Harvey Sacks
  • Gail Jefferson

会話分析の特徴の一つは、ミクロレベルでの普段の言語使用に着目していることです。自然会話の詳細な分析を通して、普段の会話がどう構成されているのかを探っています。

ちなみに、これはもともとはHarvey Sacksの自殺防止センターの会話の研究から始まったものです。サックスは、自殺防止センターの相談者は名乗らないことが多いのですが、いかに名乗らないことを達成しているのかを会話を分析して調べました。

会話分析の分析法には以下のようなものがあります。

会話分析の入門書(日本語文献)についてはこちらをご覧ください。

会話分析の入門書について(日本語文献)

 

ディスコース分析

ディスコース分析のほうは、その学術的背景は様々なので、一口にまとめることはできません。同じ「ディスコース」といっても内容が違うことが多いので、自分の読んでいる本や論文がどのディスコースについて話しているのかは意識しておいたほうがいいかもしれません(といっても簡単にできないことも多いですが・・・)

今回は以下の3つを紹介します。

  • ディスコース心理学
  • 批判的談話分析
  • フーコーのディスコース分析

興味のある方はこちらの記事もご覧ください。

ディスコースの定義の変遷についてまとめてみました。

 

ディスコース心理学(discursive psychology)

まず、1つ目はDiscursive psychologyという心理学の立場から来ているものです。

このディスコース心理学は、ミクロな視点から会話を分析することが多いという点で、会話分析と似ています。ただ、心理学の系譜から来ているので、会話の流れの規則というより、会話の中でどう人々の態度・心理現象が構築されていくのかに着目しています。

Potter and Wetherellの「Discourse and Social Psychology」(1987)がその嚆矢となった本なので、この本を引用している論文だとおそらくディスコース心理学の立場(または少なくともその影響を受けているもの)だと思います。

  • Potter, Jonathan, and Margaret Wetherell. Discourse and social psychology: Beyond attitudes and behaviour. Sage, 1987.

 

興味のある人はこちらの記事もご覧ください。↓

Discursive Psychology(ディスコース心理学)についてのメモ

 

アイデンティティの研究などで使われる、ポジショニング理論なども、この系譜なのかなと思います。

 

批判的談話分析(critical discourse analysis)

これも、ディスコース分析ですが、「批判的」との言葉にもあるように、テキストの分析を通してパワー関係やイデオロギー、社会的不平等などを明らかにすることが多いです。

これについては以前シリーズで記載したので、詳しくはそちらをご覧ください。↓

批判的談話分析(Critical Discourse Analysis)について①―日本語の文献

 

フーコーのディスコース分析

フーコーのディスコース分析は、マクロな視点に立った分析が多いです。あるトピックについて話したり、書いたりすることが、いかに政治的・イデオロギー的機能を持っているか、いかに人々の考えや行動に影響を与えるかを分析しています。

ちなみに、ディスコース分析は談話分析などとも言われますが、フーコーの立場など、権力(power)なども含めてディスコースを分析するときは、「ディスコース分析」ということが多いように思います。

フーコーの「性(sexuality)の歴史 I」についての動画を視聴しました。わかりやすかったです。

イデオロギーや権力関係を見るという点では、批判的ディスコース分析と似ていますが、批判的ディスコース分析は、隠された「真実」を明かし、社会正義を追求するという目的から分析を行うことが多いのに対し、フーコーの立場だと、「真実」というものの存在そのものにも疑問を投げかけています。