金水・田窪(1990/1992)の談話管理理論について①

談話管理理論とは

役割語の紹介をして思い出しましたが、金水は田窪と談話管理理論というのも1990年代に提唱し、指示詞(「この」「その」などの「こ・そ・あ・ど」)や終助詞「ね」と「よ」を分析する際の理論的枠組みを提示しています。

  • 金水敏・田窪行則(編)(1992)『日本語研究資料集 指示詞』東京:ひつじ書房.

↑この中の「談話管理理論からみた日本語の指示詞」という論文に、談話管理理論について詳しく記載されています。もともとは1990年に学術誌「認知科学の発展」(Vol. 3, p. 85-116)に発表された論文とのことです。

 

英語もあります。

  • Takubo, Yukinori, and Satoshi Kinsui. “Discourse management in terms of mental spaces.” Journal of Pragmatics 28.6 (1997): 741-758.

 

指示詞(現場指示・文脈指示)

ちなみに指示詞といえば、現場指示と文脈指示の2つを分けて考えることが多いです。

現場指示というのは、その場で「あれ、ちょうだい」とか「これ、ちょうだい」など、指示する対象が見えるときの「こそあ」です。

現場指示については以下のような説明がされることが多いです。

  • こ系―話し手の近くにあるものを指すとき
  • そ系―聞き手の近くにあるものを指すとき
  • あ系―どちらからも遠いものを指すとき

文脈指示というのは、文章・会話の中で出てくる、指示する対象がその場には見えないときの「こそあ」です。

文脈指示については以下のような説明がされることが多いです。

  • こ系
    • 指示しているものがあたかも話し手の近くにいるかのように話すとき
  • そ系
    • 話し手と聞き手のどちらかが知らない/経験していない事柄について話すとき
  • あ系
    • 話し手が自分と聞き手の両方が知っている/経験した事柄について話すとき

上記のように現場指示と文脈指示は別個の説明がされていたのですが、談話管理理論のおもしろいところは、この2つを統一し、そしてさらにはそれを終助詞などの分析にも適用できるような理論を提示していることです。

長くなるのでまた次の記事にしますが、談話管理理論についてもう少し紹介しようと思います。