大学における翻訳の使用に関するKällkvist(2013)を読みました。

最近は言語教育での翻訳の復権の動きがあるようです。(詳しくはこちら

日本語でも関連本が出版されています。

  • ガイ・クック (2012) 「英語教育と「訳」の効用」(齋藤兆史・北和丈 (訳) )研究社

これに関連して、以下の論文を読みました。この論文の先行研究の章の一部については昨日の記事でも紹介しました。

  • Källkvist, Marie (2013) Languaging in translation tasks used in a university setting: Particular potential for student agency?. Modern Language Journal 97 (1) 217-238.

この論文では、スウェーデンの大学の中上級~上級英語クラスでのスウェーデン語(第一言語)から英語(第二言語)への翻訳タスクの使用について扱っていました。具体的には、翻訳タスクとその他の文法関連のタスクを比較し、その中で見られた学習者の発言等を分析していました。

結果としては、翻訳タスクでは、学生が主体的に質問する回数が増えたようです。言語教育では「IRF(initiation-response-feedback)」という、教師が質問して(initiation)、学習者が回答し(response)、それについて教師がフィードバックを与える(feedback)という流れがよく生じるといわれていますが、翻訳タスクでは、教師が質問する前に「この翻訳は大丈夫?」など、学習者の方から質問が出ることが多かったようです。

ただ、他の文法関連のタスクに比べ、学生の興味関心が語彙面に向くことが多く、特定の文法事項に注意が向く回数は少なかったそうです。

これを踏まえて、学習者が共通の第一言語を話す場合という条件はありますが、教師が学習者主体のディスカッションをさせたいなど思った時には、翻訳タスクは有効であり、限定的に使うことができるのではないかといっていました。逆に、何か一つの文法事項を教えたいというときに、こういう翻訳タスクをすると、時間がかかり、注意も散漫になるおそれもあるということなのかなと思います。