人がどう一度獲得した言語を失っていくかという言語喪失(language attrition)も結構盛んに研究されています。特に移民が母語を喪失するケースや、帰国子女が帰国後に移住中に話せていた現地の言語を喪失するケースなどがよく扱われているように思います。
今日、図書館で以下の本を見つけ、ぱらぱらと読んでいると、第2章で母語喪失について扱っており、興味深かったので備忘録としてメモしておきます。
ちなみにこの本では、海外移住による言語喪失だけでなく、失語症や高齢化による言語喪失など、広い範囲の言語喪失を扱っていました。
- 伊藤克敏(2005)「ことばの習得と喪失―心理言語学への招待」勁草書房
第2章第2節(p. 55~60)では、失文法について言及していたので、メモしておきます。
失文法(agrammatism)とは、脳病変などにより文法上の障害が生じることですが、岩田(1996)によると、以下のような失文法ではいくつかの共通したパターンが見られるそうです。(pp. 55~60)
- 文法の名詞句の後には格助詞「が」が頻用される
「私がリハビリできる限りが大切ことと思う」などといったように、「が」が多用されるそうです。 - 終助詞はよく保たれている
- ヘッジ(「ほら」「そうそう」「だからさ」)は保持されやすい
- 繰り返しが多い
- 敬語の省略が目立つ
上記の伊藤(2005)ではこれらの特徴のいくつかは幼児語にもみられるとも述べていました。