言語とアイデンティティに関するBucholtz and Hallの論文を読みました。

Bucholtz and Hallについてはこの前も紹介しましたが(詳しくはこちら)、今回は以下の本の中のBucholtz and Hallのアイデンティティと言語についての論文を読みました。

  • Bucholtz, M. and Hall, K. (2004) ‘Language and Identity’, in A. Duranti (ed.) A Companion to Linguistic Anthropology,pp. 369–94. Malden, MA: Blackwell.

この本では言語人類学における言語・アイデンティティ研究を概観し、新たな枠組みについても述べていました。

言語人類学におけるアイデンティティは従前は、アイデンティティとはグループ・個人の属性であるという考え方が主流だったようです。ただ、最近そういった本質主義的(essentialism)な考え方は批判されているようで、現在はアイデンティティはその時々の場面・状況において生じてくるものと考えられることが多いようです。

Bucholtz and Hallは「この国の人はこうだ」というような文化的イデオロギーは一般的にはかなり固定的なものですが、人々が実際に場面場面でとる言動はかなり複雑で戦略的であるといっています(p. 382)

後半部では「tactics of intersubjectivity(間主観性のタクティクス)」というアイデンティティを考察する際の新たな枠組みも提示していました。タクティクスとは「戦術」という意味ですが、話者がある場面場面で相手に対してどういう戦略を使って、自らのアイデンティティを構築・再構築することができるかということを指すようです。

この枠組みでは3つの戦術を挙げていました。

  • Adequation vs Distinction:あるアイデンティティについて、他者と同じアイデンティティを持っているように振る舞うか、または他者とは別のアイデンティティであるかのように振る舞うか。
  • Authentication vs Denaturalization:あるアイデンティティが本物で真実なものというか、アイデンティティが本質的なものでなく偽りのものというか。
  • Authorization vs Illegitimation:権力(power)を使い、ある社会的アイデンティティを正当化するか、または非正当化するか。