ホミ・K・バーバのハイブリディティとその批判について①

最近の応用言語学では、複言語・多言語使用を肯定的に認識する流れがあります。こういった流れを批判的に見たKubota (2014)の論文を読みました。

  • Kubota, R. (2014). The multi/plural turn, postcolonial theory, and neoliberal multiculturalism: Complicities and implications for applied linguistics. Applied Linguistics. 1-22. Doi:10.1093/applin/amu045.

内容についてはまた紹介できればと思いますが、その中で、ホミ・K・バーバ(Homi K. Bhabha)の「ハイブリディティ(hybridity)」に対する批判をまとめていました。(p.6-p.8)

ホミ・K・バーバはポストコロニアリズム理論の代表的な学者の一人で、以下の本はポストコロニアリズム理論を学ぶ際には必読書の一つになっています。

  • Bhabha, Homi. K. (1994) The Location of Culture. Routledge

和訳も出ています。

  • ホミ・K. バーバ (2012) 文化の場所 : ポストコロニアリズムの位相. 本橋哲也ほか訳. 法政大学出版局.

バーバの提唱した概念でよく引用されるものが「ハイブリディティ(hybridity)」です。ハイブリディティというのは、一般的な意味は「混ざり合い」ということですが、バーバのいう「hybridity」は、植民者と被植民者の関係性の中で生じた新たな文化・アイデンティティ(またはこういった新たな文化・アイデンティティの生まれる過程)という意味合いで使われています。

バーバは、植民者の文化と被植民者の文化というのは、固定的で純粋なものではなく、被植民者が植民者の文化を、また植民者が被植民者の文化を翻訳し、模倣し、自らのものとしていく過程で、既存の権力関係が脅かされ、変化する契機となるといっています。(バーバはこういった文化を翻訳し、模倣し、自らのものとし、新たな視点が生まれる場のことを「Third Space(第三の空間)」と呼んでいます。)

植民地では往々にして、フランス語・英語など植民者の言語を自由に操る被植民者が生まれ、その中にはフランツ・ファノンのようにポストコロニアル作家として執筆活動に励む者も出てきます。「hybridity」の例として、こういった両方の文化・言語を熟知し、2つの文化の間(in-between)にいる者たちが挙げられています。

この「hybridity」の概念が示唆するところは多く、応用言語学にも大きな影響を与えたのですが、このhybridityの概念も今はずいぶん批判されています。上記のKubota (2014)の論文はそれを端的にまとめていてわかりやすかったので、これについてメモするつもりだったのですが、長くなるのでまた今度にします。