Talmyの移動動詞の類型論
この記事では、Talmyの移動動詞の類型論についてご紹介します。
- Talmy, Leonard. Toward a cognitive semantics. Vol. 2. MIT press, 2000.
まず、以下の文を見てみてください。
- He walked into the room
- He ran out of the room
これを日本語に訳してみるとどうなるでしょうか?
- 彼は部屋に歩いて入った
- 彼は部屋を走って出た
上記のように訳されることが多いと思います。
「He walked into the room」「He ran out of the room」を直訳して「彼は部屋に歩いた」や「彼は部屋の中から走った」とはあまり言わないと思います。
Talmyは、英語のような言語を衛星枠付け言語(satellite-framed languages)、日本語のような言語を動詞枠付け言語(verb-framed languages)と呼びました。
衛星枠付け言語(satellite-framed languages)と動詞枠付け言語(verb-framed languages)
衛星枠付け言語
衛星枠付け言語は、移動のときにどういう経路を通ったか(移動の方向性)という、「経路(Path)」を前置詞、接辞、後置詞などの動詞・名詞の周りにくっついているもの、つまり「衛星(satellite)」的なもので示します。
例えば、英語の場合、移動のときにどういう経路を通ったか(移動の方向性)という、「経路(Path)」は、英語はinto/out ofというような前置詞で示されます。
- walk into (~に歩いて入る)
- walk off (歩いて離れる、歩き去る)
- walk out of (~から歩いて出る)
また、衛星枠付け言語は、メインの動詞が「移動(Motion)」と「様子(Manner)」の両方を示します。
どういうことかというと、「walk」などの動詞が、「移動していること、場所を変化していること(Motion)」と「どう移動いているか(Manner)」の両方を説明しているということです。
以下を見てください。
- walk(歩く)
- waddle(よたよた歩く)
- stroll(のんびりと歩く)
- stagger(転びそうになりながら歩く)
- strumble(よろめき歩く)
すべて「歩く」という動詞ですが、「waddle」「stroll」「stagger」などの動詞そのもので「どう動いているか」という様子(Manner)も説明していますね。
動詞が「移動(Motion)」と「様子(Manner)」を融合(conflate)しているといったりします。
衛星枠付け言語の例としては、英語の他、ドイツ語や中国語があります。
動詞枠付け言語
動詞枠付け言語は、移動のときにどういう経路を通ったか(移動の方向)という「経路(Path)」が動詞で示されることが多いです。
以下の例を見てください。
- 走り込む(run into)
- 走って入る(run in)
- 走り出る(run out)
- 走って通る(run through)
上記のように「走り出る」などの複合動詞や、「入る」「出る」「通る」などの動詞を使って、移動の方向性(経路(Path))を示しますね。
動詞を使って「移動(Motion)」と「経路(Path)」の両方を示すことが多いです。
なお、動詞枠付け言語では、メインの動詞が、どう移動いているかという「様子(Manner)」は示しません。
- 歩く
- ゆっくり歩く
- のんびり歩く
- 急いで歩く
日本語では、「どう動いているか」という様子(Manner)は、「ゆっくり」「のんびりと」「急いで」など、メインの動詞にひっついている副詞等で説明していますね。
動詞枠付け言語の例としては、日本語の他、フランス語、スペイン語、タミル語、トルコ語、韓国語などが含まれます。
ご興味のある方は
このTalmyについては、日本語でも紹介されています。
- 影山太郎. “日英対照 動詞の意味と構文.” 東京: 大修館 (2001).