ByrnesのReconsidering Crosscultural Abilities—The Link to Language Learning and Assessmentというタイトルの動画を見ました。
彼女は言語教育(特に上級レベル)で、歴史・社会・文化などの教える内容(コンテント)と言語学習をどう組み合わせるかというテーマでいろいろ研究している学者です。
以下のような本も出しています。
- Byrnes, Heidi. Advanced language learning: The contribution of Halliday and Vygotsky. A&C Black, 2009.
今回は文化間能力をどうやって言語のクラスで伸ばすかというテーマで話していました。
- Byrnes, Heidi (2012) Reconsidering Crosscultural Abilities
上の本でも書いていましたが、この講演でも、彼女は「systemic functional linguistics(選択体系機能言語学)」がいい理論的枠組みとなるのではと言っていました。
選択体系機能言語学(SFL)はハリデーが提唱したもので、基本理念として、言語は記号体系で、言語を使用する人は、自分の言語リソースから適切なものを選んで使うという考えがあります。
例えば自分のことを指すときに「わたし」「おれ」「あたし」「ぼく」などいろいろな言語リソースがありますが、言語を使用する人はそのリソースの中から「選択する」ことになります。
また、SFLは言語は社会的コンテクスト(文脈・状況)から切っても切れないと言う立場で、あるテキストがどのように社会的コンテクストと結びついているかについて分析方法も提示しています。
これだけ読むと「あ、そうなんだ」という感じですが、この2点は言語教育では結構大切なポイントになってきます。
というのも、チョムスキーなどの生成文法に基づく言語教育だと、どちらかというとネイティブスピーカーのような言語能力を持つためにはどうすればいいのかという点に重きが置かれるため、学習者は「ネイティブスピーカーの言語能力に近づくために言語を学ぶ」というような考え方になることが多いです。このため、学習者は「ネイティブスピーカー」の真似をすることになり、言語を使用する際に「自分で言語を選択する」という点は目がいかないこともあります。また生成文法だと、個人の脳に内在する言語体系に目がいきがちで、社会的なものには目がいかない傾向にあります。
もちろん現実にはネイティブスピーカーを規範にすることが多いので、上記の考えに基づいた研究もとても大切なことだと思いますが、そういった言語教育に対してSFLが示唆するところは多いということだと思います。
Byrnesによると、社会的コンテクスト(文化を含む)と言語を結びつけて考えているSFLは、言語と文化を結びつける上でも有効なのではないかと話していました。