Baynham(2011)の講演を視聴。アイデンティティ研究をするのはなかなか難しいなと思いました。

前紹介したKramschByramGillespieと同じワークショップで発表されたBaynhamの講演を見ました。

  • Baynham (2011) Identity brought along or brought about?

 

Kramschはidentityとsubjectivityの違いについては扱うテーマの違いを挙げていましたが、この講演を聞く限りだと、BaynhamはKramschとは違う捉え方をしているようです。私が理解した範囲だと、subjectivityはその場その場の会話で言語を通してどう自らを表現しているかを指し(identity brought about)、identityは自分が繰り返し構築してきた自己(subjectivityよりもう少し固定的なもの)(identity brought along)とみているようでした。Blockも同じような考え方でした。

ただ、identityを固定的で変わらないものとみるのは今の学説では否定されており、「historicizing identity」(アイデンティティーの歴史化)が必要ではと言っていました。どういうことかというと、ブルデューの「habitus」やバトラーのアイデンティティ構築のように、ある意味固定的なアイデンティティがどう構築されていったのかその過程を見る必要があるとのことです。

また、彼はアイデンティティを調べるのに、ナラティブ(語り)は便利だといっていました。理由としては、繰り返し語られること、語り手が積極的にかかわっていること、語り手が責任を持って話すこと、明確に筋立てられていることが多いことなどを挙げていました。

ただ、彼のナラティブの分析で、よくある移民のストーリーに当てはまらないモロッコ移民の例を挙げて、「ピカレスク小説」になぞらえていましたが、その研究対象の移民本人が自分のストーリーが「ピカレスク小説」だと話していたわけではないらしく、どこまで研究者の解釈を加えていいのか、などの質問がありました。

アイデンティティにせよsubjectivityにせよ、いろいろな複雑要因が絡み合っている問題なだけに、研究として取り上げるのは難しいなと思います。

 

Baynhamは以下のような本も執筆しているようです。

  • Collins, James, Stef Slembrouck, and Mike Baynham, eds. Globalization and language in contact: Scale, migration, and communicative practices. A&C Black, 2009.