継承語として中国語を学ぶ学習者のアイデンティティ理論に関するHe(2006)の論文を読みました。

この前、継承語学習者の定義に関する論文を紹介しましたが、同じ学術誌に掲載されていた別の論文も読んでみました。

  • He, Agnes Weiyun. “Toward an identity theory of the development of Chinese as a heritage language.” Heritage Language Journal 4.1 (2006): 1-28.

この論文では中国語を継承語として学ぶ学習者のアイデンティティ理論を提唱していました。

 

Heは以下のような本も出版しているようです。

  • He, Agnes Weiyun, and Yun Xiao. Chinese as a heritage language: Fostering rooted world citizenry. Vol. 2. Natl Foreign Lg Resource Ctr, 2008.

今回読んだ論文では、中国語を継承語として学ぶ学習者の特徴として、その複雑性を指摘していました。「中国語」と一口にいっても、呉語(上海語など)、湘語、カン語、閩語、広東語、客家語、 マンダリン(Mandarin)など多様です。中国語の継承語クラスではMandarinが教えられることが多いので、家庭の言語がいわゆる客家語や広東語などの場合は、「中国語の継承語のクラス」に来たとしても、普通語と家庭言語との差異が大きく、ほぼ第二言語を学ぶに近くなることもあります。

こういった特徴を指摘した後で、言語社会化、第二言語習得、会話分析などの知見をもとに、中国語として継承語を学ぶ学習者のアイデンティティ理論として、時間、場所、アイデンティティという3つの側面が重なり合っているといっていました。

「時間」という側面からは、継承語学習というのは、過去を再解釈し(re-contextualize)、現在を変化させ、将来を形作っていく(pre-contextualize)プロセスだといっていました。また、「場所」という点では、ローカルで独立したコミュニティを、リンガフランカであるMandarin Chineseを通してグローバルで独立したコミュニティへと変えていくといっていました。

さらに、継承語能力を伸ばせるかどうかは、自らが生活する社会の中でどう居場所を見つけられるかにかかっているとも言っていました。例えば、小学校までは継承語のみで生活し、小学校からは学校の言語と家庭の言語が違うために苦労した場合などは、継承語に対してネガティブな感情をもつ可能性が高いのではと言っていました。