Bucholtz and Hall (2005)
アイデンティティについて研究するときの理論的枠組みを提唱したBucholtz and Hall (2005)の以下の論文を読みました。
- Bucholtz, Mary, and Kira Hall. “Identity and interaction: A sociocultural linguistic approach.” Discourse studies 7.4-5 (2005): 585-614.
Bucholtz and Hallは、アイデンティティを広く「social positioning of self and other (p. 586)」と定義しています。要するに自己と他者をどう社会的に位置づけるかということかと思います。
アイデンティティの5原則
そして、アイデンティティについて以下の5つの原則を挙げていました。
Emergence
Emergenceは日本語に訳すと「表出」とか「出現」とかになると思います。
ここで言いたいことは、アイデンティティは所与のものではなく、社会的・文化的現象で、インターラクションの中で表出してくるものということだと思います。
Positionality
Positionalityも立場性、立ち位置などと訳されているようですが、年齢、人種、母語などのマクロレベルのアイデンティティの分類だけではなく、実際の対話の中で表出するローカルな場でのアイデンティティ(例えば、ある女子高校生のグループ内での特定の話し方など)やその場その場での役割などを含むということのようです。
Indexicality
Indexicalityは指標性と訳されることが多く、額を触って熱があれば風邪をひいているだろう、きれいな夕焼けだったら明日は晴れだろうと推測するなど、「額を触る」「きれいな夕焼け」というある事象が、「風邪をひいている」「明日は晴れ」などの別の事象を指ししめすというような意味です。
アイデンティティは、直接「自分は日本人だ」というようにあるカテゴリーについて言及したり、その他自分のアイデンティティを暗示するようなことをいったり、あるグループや人物像を彷彿させるような言葉遣いをしたりするなど、複数の指標を通して、あらわれてくるものだといっています。
Relationality
Relationalityは関係性のことですが、アイデンティティは、個々で存在するのではなく、他のものとの関係性で存在するといっていました。類似性や差異を強調したり、ある場面でその人に求められるような言動をしたりしなかったりするなど、複数の関係性の中で構築されているといっていました。
Partialness
Partialnessは「一部」「不完全」といった意味ですが、アイデンティティの構築は自分の意志のみで構築できるものではなく、常にその他のイデオロギーや対話のプロセスなどによる制約や影響を受けているということらしいです。
興味のある方は
この論文の著者は、以下のような本も出版しているようです。
- Hall, Kira, and Mary Bucholtz, eds. Gender articulated: Language and the socially constructed self. Routledge, 2012.