このまえLinguistic landscape(言語景観研究)について紹介しましたが(詳しくはこちら)、今回はそのLinguistic landscapeを使った、以下の短い論文を読んでみました。
- Cenoz, J. and Gorter, D. (2006). Linguistic landscape and minority languages. International Journal of Multilingualism, 3(1), 67–80.
著者の2人はマイノリティ言語や多言語教育についていくつか共著で出版しているようです。
- Cenoz, Jasone, and Durk Gorter, eds. Multilingual Education. Cambridge University Press, 2015.
- Gorter, Durk, Victoria Zenotz, and Jasone Cenoz. Minority languages and multilingual education. Berlin: Springer, 2014.
今回読んだ論文では、オランダのフリースランド州とバスク地方という、マイノリティ言語が話されている2つの地域での言語景観の分析を通して、マイノリティ言語とマジョリティの言語、そして国際語となっている英語の関係を調査していました。
フリースランド州(見えづらいですが下記の地図の赤い部分)はオランダの北西部にあり、オランダ語の他にフリジア語が公用語となっている州です。94%がフリジア語がわかり、74%がフリジア語を話し、65%がフリジア語が読め、17%がフリジア語が書けるそうです(Gorter & Jonkman, 1995)。ただ、フリジア語に関する言語政策はあまりないらしく、最近の若者はオランダ語を第一言語とする人が増えているそうです(Gorter, 2005)。(p.68-69)
バスク地方はスペインの北部とフランスの南部にまたがる地域ですが、今回調査が行われたのはスペインのバスク自治州(下記の地図の赤い部分)のサン・セバスティアンという都市です。バスク地方全体のバイリンガル話者(バスク語・スペイン語またはバスク語・フランス語)は22%で、14.5%が受動的バイリンガル(聞いたら分かるが、自分では話せない)だそうです。バスク自治州では1979年からバスク語とスペイン語が公用語で、州政府が学校教育や、行政サービス、メディアや職場などでのバスク語使用を推進するなど、バスク語復興のための言語政策も積極的に行われているようです。(p.69-70)
この2つの地域の通りの言語景観(看板等)を調査したところ、フリースランド州で調査したNijsted-Nieuwestad通りでは、オランダ語が優勢で、次に英語、フリジア語は少なかったそうです。バスク州の調査したBulevar-Boulevardでは、スペイン語が一番多く、次にバスク語で、英語は一番存在感が少なかったと言っていました。
フリジア語のほうがバスク語より人口に対する話者の割合が多いにも関わらず、バスク語のほうが言語景観における存在感が高かったことという結果が出たわけですが、この理由としては、両州の言語政策を反映しているのではないかといっていました。(他にも英語の存在についても簡単に分析していましたが割愛します)
フリジア語についての文法本も日本語でありました。
- 児玉仁士 「フリジア語文法」 大学書林 (1992).
バスク語については日本語でいろいろ本が出ているみたいですね。
- 吉田浩美 「バスク語のしくみ」白水社.