スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセトの翻訳論についてのラジオ番組を聞きました。

フランスのRadio France Internationaleというラジオ国際放送局の番組の1つに「Danse des mots」(http://www.rfi.fr/emission/danse-mots/)という言語関係のトピックを扱うものがあり、今日聞いたものがおもしろかったのでメモします。

  • Misere Et Splendeur De La Traduction (2013)
    http://www.rfi.fr/emission/20140328-misere-splendeur-traduction/

スペインの哲学者のホセ・オルテガ・イ・ガセト(José Ortega y Gasset)の「Misère et splendeur de la traduction (翻訳の悲惨と栄光)」がフランス語で正式に出版されたらしいです。オルテガがこれを書いたのは1937年で、しかもその頃はパリに亡命していたらしいのです。なぜそんな彼のこの本が今の今まで正式に翻訳されていなかったかというと、おそらくこの本の中にフランス語を攻撃するような発言があったからではないかと言っていました。

  • Ortega y Gasset, José. “Misère et splendeur de la traduction, trad. sous la dir. de François Géal.” Paris, Les Belles Lettres, coll.«Traductologiques» dir. par Jean-René Ladmiral et Jean-Yves Masson (2013).

ちなみにこのタイトル「Misère et splendeur」はフランスを代表する作家バルザックの本をきているとのことです。

  • De Balzac, Honore. Splendeurs et misères des courtisanes. Le Livre de poche, 2012.

バルザックの本は日本語訳も出ています。

  • バルザック(2000) ( 鹿島茂他(編))娼婦の栄光と悲惨―悪党ヴォートラン最後の変身〈上〉 (バルザック「人間喜劇」セレクション)

ただ、バルザックの本とは違い、オルテガの本では「Misère(悲惨・みじめ)」が先に出ています。それは、翻訳するというのは不可能な行為であり(パーフェクトな翻訳はない)、そういう意味で「Misère(悲惨・みじめ)」ではあるのだが、その不可能を乗り越えようと努力することが「splendeur(栄光・すばらしいこと)」なのだという意味があるそうです。

また、翻訳だけでなくて、自分の考えを何かに書いたり言ったりするときも、自分の考えを100%伝えることはできず、相手に合わせて自分の言葉を変えたりしなければならないので、書いたり言ったりする行為も、翻訳と似ているといっているそうです。

私はオルテガについては全然詳しくないのですが、ちょっと調べてみたら大衆社会論で有名みたいですね。下記の本のアマゾンの紹介文に大衆とは「諸権利を主張するばかりで、自らにたのむところ少なく、しかも凡庸たることの権利までも要求する大衆」と書かれていました。

  • オルテガ・イ・ガセット. “大衆の反逆.” 神吉敬三 (訳) ちくま書房学芸文庫 (1995).