この前、イギリスのドキュメンタリー監督のAdam Curtis(アダム・カーティス)のBitter Lakeについて紹介しました(詳しくはこちら)。
もう少し他の作品も見たいなと思っていたら、彼の2004年の3部作のドキュメンタリー「The Power of Nightmares: The Rise of the Politics of Fear」がインターネットアーカイブにアップロードされていたので、見てみました(2015年3月現在)
リンク:https://archive.org/details/ThePowerOfNightmares-Episode1BabyItsColdOutside (アクセス:2015年3月)
このドキュメンタリーは「テロとの戦いの真相」と題してNHK BS2の『BS世界のドキュメンタリー』で放送されていたようです。
この3部作では、以下の明確なストーリーに沿って話が進んでいきます。
- 今まで政治家は世の中を良くすると公約してきたが、イデオロギー喪失の時代、このような公約を信じる人もいなくなり、政治家は権威を失い、ただの「まとめ役(manager)」になりつつある。そんな中、政治家は世の中を良くするためではなく、nightmare(悪夢)(つまりテロ)から国民を守ることにより自らの権威を保つようになった。現在のテロというのは、実際よりも誇張され、作り出されたファンタジーである側面が大きい (注:引用ではありません)
上記の考えに基づき、新保守主義(ネオコン)とイスラーム原理主義という2つのストーリーを取り上げ、1949年から2004年までの流れを追っています。面白い視点だなと思ったのは、この新保守主義・イスラーム原理主義の類似点を強調する形で話が進むことです。このドキュメンタリーでは、双方ともに、アメリカの消費主義や個人主義、モラルの崩壊を批判し、「モラル」の復興を求め、そしてその中で仮想「敵」を作り出していったという形で描かれていました。
第一部では、作家・教育者のサイイド・クトゥブ(Sayyid Qutb)と哲学者レオ・シュトラウス(Leo Strauss)という個人主義に懸念を示した2人の思想が、後にそれぞれイスラーム原理主義と新保守主義に影響を及ぼしていったかを描いていました。
第二部では、(うろ覚えですが確か)アフガニスタン紛争ぐらいから、イスラーム原理主義と新保守主義が多数派から支持を失っていく過程、第三部では9.11から新保守主義が政権を握り、イスラームを仮想「敵」(fantom enermy)として再構築していく過程を描いていました。
新保守主義(ネオコン)とイスラーム原理主義の描き方にはちょっと強引かなと思うところもありましたが、「中立」を装う作りのドキュメンタリーよりは、こうはっきりと意見・立場を提示しているほうが見ている方も分かりやすいですね。