ふとしたきっかけで、Culture & Psychology(文化&心理学)というジャーナルについて知りました。心理学には疎いですが、役に立つ知見も大いにありそうだったので、早速2014年最新号の記事を1つ読んでみました。
読んだのは以下の記事です。
- Esteban-Guitart, M. & Moll, L. C. (2014). Funds of Identity: A new concept based on the Funds of Knowledge approach
この論文では、アイデンティティーをロシアの心理学者ヴィゴツキー(詳しくはこちら)を基に発展し「funds of knowledge」(知識の資産)(Moll 2005)の観点から定義しようとしています。
ヴィゴツキーはただの経験ではなくて、人が経験したことをどう受け止めるかによって経験の意味も変わってくるといい、これをperezhivanie(lived experience)という言葉で表現しているそうです。日本語だと「生きられた経験」などという訳になって分かりづらくなってしまうのですが、要するにただの「事実」としての経験ではなく、ある人がどう主観的にこの経験を受け止めたかという点に着目しているそうです。
これを基に、この論文では人々は社会生活や教育を通してこのlived experienceというのを形成していくものであるといい、「funds of identity(アイデンティティの資産)」という概念を提唱しています。funds of identity(アイデンティティの資産)とは、自らを定義し、自らを表現し、自らを理解するのに不可欠な資源のことで、これは歴史的に蓄積され、文化的に発展し、社会的に分配されるものであるといっています(p. 37). つまり、funds of identity(アイデンティティの資産)とは自らを表現等するときの「box of tools and signs」(ツール・サイン一式)のことだそうです。
funds of identityを知る手段として、セルフポートレイトやsignificant circle(自分にとって重要な人・物・活動・機関等を挙げさせるsignificant circleを挙げていました。ただ、この論文でも少しこの手法の限界に触れていましたが、この2つは「誰に対して書くか」「いつ書くか」によって内容もかなり変わってくる気がするので、データとしては限定的な気もしました。
他の記事もぱらぱら見ましたが、ヴィゴツキーの影響を受けたものが結構ありました。ヴィゴツキーは思考と言語、社会とのかかわりに言及しているのでこういう社会心理学系の論文では引用されやすいのかなと思います。
- Esteban-Guitart, Moises. Funds of Identity: Connecting Meaningful Learning Experiences In and Out of School. Cambridge University Press, 2016.