文化教育で有名なKramsch (2009)の本の言語教育に関する部分を読み直しました・・・。

Claire Kramsch

2月ももう終わりですね。数か月前にも紹介しましたが(前回記事①前回記事②)、上記のKramsch (2009)の言語教育に関する部分(第7章)を読み直しました。何回かこのブログでも紹介していますが、Kramschは文化教育で有名な応用言語学者です。カリフォルニア大学のバークレー校の教授です。

  • Claire Kramsch. 2009. The Multilingual Subject: What Foreign Language Learners Say about Their Experience and Why It Matters. Oxford: Oxford University Press.

 

現在の言語教育について

第7章では言語教育について話していました。

Kramschは多数の言語を日常的に使用する人が増えている今、言語教育では以下の3つのことを考えなければいけないといっています。

①Expanding the symbolic self

クラムシュは言葉のことを「シンボル(記号)」だといっています(詳しくはこちら)。(記号は言葉に限らず、ジェスチャー、服装、その他諸々も記号に入ると思います。)Expanding the symbolic self(シンボリックな自己の拡大)というのは(言葉などの)記号のリソースを増やし、(言葉などの)記号使って表現できる自己を拡大していく、ということだと思います。

Kramschはこれには言葉の表面的な意味だけではなくて、言葉がどういう含意を含むかなどの言外の意味も理解することや、自らや相手の考え・発言がどういう歴史的文脈に位置づけられるのかなどを考えることなどが含まれるといっています。

例えば、「9.11」というと単に日付としての「9月11日」ではなく、特定の事件を思い浮かべる人が多いと思います。「9.11」の言外の意味も知り、こういう言葉がどういう歴史的文脈におかれ、使われているのかいうのも考えるということなのかなとと思いました。

②Modeling symbolic action

これも言葉(等の記号)を通してどう行動すればいいか考えるということだそうです。例えば、ドアを開けてほしいとき、「ドアを開けて」「ドアを開けてください」「ちょっと・・」とか言葉を通して頼まなければいけません。そういう「(言葉などの)記号を仲介している行動」を「シンボリックアクション」とKramschはいっていて、言語教育ではこの「シンボリックアクション」に注目する必要があるといっています。

具体的には批判的・内省的(critical/reflexive)アプローチと、創造的/ナラティブ(creative/narrative)アプローチという2つのアプローチをクラス内でのアプローチとして挙げていました。批判的・内省的アプローチを通して行動について振り返り、話し合い、また、創造的/ナラティブアプローチを通して自らの実際の行動を考えることができるといっていました。

③Developing symbolic competence

こういう言葉をはじめとした記号を使いこなす力をsymbolic competence(シンボリック能力)と言っています。これには、①上にもあげたような、言葉の表面的な意味でなくて、言外の意味を理解する力、そして、②いろいろな言語を使って今までの自分の考え方を別の視点でみたり、別のように表現したりする力、さらには、③言語を(批判的に)見る力、そして言語を通して(批判的に)考える力も含まれるといっています。(注:かなり雑い説明です。詳しくはp. 201)

この上記でもわかるかと思いますが、ここでクラムシュがしようとしているのは「文化A」「文化B」などにとらわれずに多言語の視点から言語教育を捉えているということです。つまり、日本語を学ぶ学習者に対して、日本語が上手になろうとか、日本文化について知ろうとか、「ある言語」「ある文化」に関する枠組みではなく、学習者が複数の言語を使い、どう生きていくかに注目しています。