授受表現とは?(あげる・もらう・くれる)

授受表現とは?

授受表現とは、「授受」という言葉のとおり、授けたり、受け取ったりするときの表現のことです。「やりもらい」とも言います。

日本語で授受表現というときは、授受動詞または授受補助動詞が使われている表現のことをいいます。

授受動詞は以下の7つがあります。

やる、あげる、さしあげる、もらう、いただく、くれる、くださる

「太郎は花子にプレゼントをもらう」のように、授受動詞は「物のやりもらい」で使われます。

 

これらの授受動詞は、「~て」に接続して、補助動詞として使うこともできます(補助動詞については「日本語の本動詞と補助動詞の違いについて」をご覧ください)。

~てやる、~てあげる、~てさしあげる、~てもらう、~ていただく、~てくれる、~てくださる

補助動詞として使う場合、「太郎は花子にプレゼントを買っもらった」のように、「買う」という「行為のやりもらい」で使われます。

 

繰り返しになりますが、上記の授受動詞・授受補助動詞が使われている表現を「授受表現」と呼びます。

なお、授受動詞・授受補助動詞は、「あげる形」「もらう形」「くれる形」の3つに分類できます。

①あげる形

まずは「あげる形」です。「あげる/~てあげる」「やる/~てやる」「さしあげる/~てさしあげる」が入ります。

  • (私は)花に水をやった
  • (私は)孫におもちゃを買ってやった
  • 花子は太郎にプレゼントをあげた
  • 花子は太郎に宿題を教えてあげた
  • (私は)後日、メールをさしあげます
  • 部長が忙しそうだったので、(私は)部長の代わりに取引先に電話をしてさしあげた

「あげる形」の場合、主体の動作によって、二格(「~に」)で示されるものが恩恵を受けます。(沖森卓也他, 2006, p. 121)

例えば、「花子は太郎にプレゼントをあげた」の場合、主体である「花子」の「あげる」という動作によって、「~に」で表される「太郎」が恩恵を受けます。

「~に」だけでなく、「私は友達引っ越しを手伝ってあげる」「私は友達のためにノートをとってあげる」など、「~の」「~のために」になることもあります。

②もらう形

次は、「もらう形」です。「もらう/~てもらう」と「いただく/~ていただく」があります。

「いただく/~ていただく」は「もらう/~てもらう」の謙譲語です。

  • 太郎は花子にプレゼントをもらう
  • 太郎は花子におもちゃを買ってもらう
  • (私は)先生にプレゼントをいただく
  • (私は)部長に確認していただく

「もらう形」の場合、二格(「~に」)で示される動作の主体が動作をすることによって、ガ格(「~が」がつくことのできる名詞)で示される対象が恩恵を受けます。(沖森卓也他, 2006, p. 122)

「太郎は花子にプレゼントをもらう」の場合、「~に」で表される「花子」の動作によって、「太郎」が恩恵を受けます。

③くれる形

最後は「くれる形」です。「くれる/~てくれる」と「くださる/~てくださる」が入ります。

「くださる/~てくださる」は「くれる/~てくれる」の尊敬語です。

  • 花子が妹にプレゼントをくれた
  • 花子が妹に宿題を教えてくれる
  • 先生が(私に)お土産をくださる
  • 部長が(私を)駅まで送ってくださった

動作が行われることによって、話し手もしくは話し手の「ウチ」側の利益になることを表す言い方です(沖森卓也他, 2006, p. 122)

例えば、「花子が妹にプレゼントをくれた」の場合、恩恵を受けるのは、話し手の身内である「妹」になります。

日本語教育での授受表現

授受表現は日本語教育の初級で必ずといってもいいほど導入される表現ですが、中上級でも難しいと感じる学習者が多いです。

①「ウチ」と「ソト」の概念

難しいポイントの一つは、「くれる形」と「あげる形」は、他の言語で区別されていないことが多いことです。

例えば、英語では「くれる形」も「あげる形」も、基本的に「give」で表されます。

  • 先生が(私に)プレゼントをくれる。My teacher gives me a present.
  • 太郎が花子にプレゼントをあげる。Taro gives Hanako a present.

なので、違いを説明するときに、しばしば「ウチ」と「ソト」の概念が持ち出されます。

つまり、「ウチ」の人(自分・家族)が受け手の場合は「くれる形」を、それ以外の場合は「あげる形」を使うと説明することが多いです。もちろん、家族でなくても、自分が心理的に近いと思っている人であれば、「くれる形」を使えます。

上記の「先生が(私に)プレゼントをくれる」の場合、受け手が「私」(自分自身)なので、「くれる形」が使われます。

「太郎が花子にプレゼントをあげる」の場合、受け手が自分でも自分の家族でもない、第三者の「花子」なので、「あげる形」が選ばれています。

ただ、現実には、自分・家族以外が受け手の場合も、以下のように「くれる形」を使うこともよくあるため、複雑です。

(友達同士のAさんとBさんの会話)

  • A:自分の書いた日本語を誰かにチェックしてほしいんだけど、山田さんに頼めるかな?
  • B: 山田さんならきっと(Aさんを)手伝ってくれると思うよ。

この場合、Bさんの発言に「手伝ってくれる」と「くれる形」が使われています。

ただ、Bさんにとって、山田さんの行為によって恩恵を受けるAさんは、Bさん自身でもBさんの家族でもありません。

Bさんは、話し手のAさんから受けた相談を、自分事と捉えて「くれる形」を使っていると考えられますが、なかなか複雑です。

②感謝の気持ち

日本語の授受表現には、話し手の感謝の気持ちがしばしば含まれます。

例えば、以下のように「~てくれる」を使うことで、受け手の感謝の気持ちを示すことができます。

  • 友達は私に日本語を教えた。
  • 友達は私に日本語を教えてくれた

ただ、授受表現が常に感謝の気持ちを伝えるわけではありません。

例えば、「弟の宿題を手伝ってやった」のように、「やる」には感謝の意味はありません。

また、「くれる形」でも、「なんてことをしてくれたんだ」というように、感謝ではなく、損害を被ったときに使われることもあります。

まとめ&ご興味のある方は

授受表現について簡単に説明しました。まとめると以下のようになります。

  • 授受表現とは、授けたり、受け取ったりするときのやりもらいの表現のことをいう。
  • 日本語の授受表現は、「やる、あげる、さしあげる、もらう、いただく、くれる、くださる」の7つの授受動詞と授受補助動詞で示される。
  • 授受動詞は、「あげる形(やる、あげる、さしあげる)」「もらう形(もらう、いただく)」「くれる形(くれる、くださる)」に分けられる。
  • 授受表現は日本語学習者にとっては難しい文法項目の一つである。

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

参考文献