フォーカスとプロミネンスの違いについて

この記事ではフォーカスとプロミネンスの違いについて説明します。

フォーカスとプロミネンスの違い

結論から言うと、違いは以下のようになります(森山・渋谷 2020, p. 133, p. 136、近藤・小森 2014, p. 38)。

  • フォーカス:文中で情報的に中心になる部分、メッセージの中で話者が一番伝えたい要素
  • プロミネンス:フォーカスを音声的に実現したもの。メッセージの中で話者が一番伝えたい要素を聞き手によく伝わるように、その部分を目立たせること

この二つは、使われる分野も違います。

フォーカスというのは、談話・語用論でよく使われる概念です。会話であっても、文章であっても、文中で情報の中心になる部分のことを指します。焦点ともいいます。

プロミネンスというのは、音声学で使われる概念です。情報の中心になる情報を、音声的にどう伝えるかということになります。

フォーカス

フォーカスというのは、文中で情報的に中心になる部分です。

例1:疑問詞を含む疑問文

以下の文を見てください。

A: だれが明日、プレゼンをするんですか?
B: プレゼンをするのは、山田さんです。

フォーカスは、赤字で記載した、話し手・聞き手が前提としていない、新しい情報を伝える部分です。

フォーカスを考える際にポイントとなるのは、文の前提が何かです。

上記の場合、Aは「だれかが明日プレゼンをすること」を知っています。これは文の前提となります。

この文でAがわからない部分は「だれが」の部分です。この部分は文中の情報的に中心になる部分で、フォーカスになります。

Bの「プレゼンをするのは、山田さんです。」は、強調構文になっていますが、「山田さん」がフォーカスになります。この場合も、Bさんは「だれかがプレゼンをする」ことを前提として知っていて、新しい情報として「山田さん」を提示しています。

疑問詞を含む疑問文では、疑問詞がフォーカスになり、応答する文では疑問詞に対応する部分がフォーカスになります。

例2:とりたて助詞

「も」「さえ」「しか」などのとりたて助詞のある部分も、しばしば文のフォーカスになります。

以下を見てください。

私にもお菓子をちょうだい!

上記の文の場合、「他の人がお菓子をもらった」という前提があります(「他人がお菓子をもらったから、私も欲しい」という意味ですね)。

「も」というとりたて助詞が付加されている「私にも」という部分が、新しい情報になり、文のフォーカスになります。

なお、文章のどこにフォーカスがあるかは、書き言葉で文脈がない場合、わからないことが多いです。

例えば「私は昨日大学の図書館で勉強しました」という文だけみても、文のフォーカスは「昨日」なのか、「大学」なのか、「図書館」なのかはわかりません。

ただ、実際に発話をしてみると、音の高さや大きさなどによってどこがフォーカスなのかわかります。

 

プロミネンス

プロミネンスは、「メッセージの中で話者が一番伝えたい要素を聞き手によく伝わるように、その部分を目立たせること」(近藤・小森 2014, p. 38)です。

フォーカスを音声的に実現したものがプロミネンスになります。一番伝えたい要素を、音の長さ、高さ、大きさ、前後のポーズなどを通して際立たせて発音します。

目立っている部分を「プロミネンスがある」と言います。

意図的に話者が伝えたい部分を強調していうこともあれば、単語のアクセントや文法構造によって自然にプロミネンスが決まることもあります。

 

先ほど述べたように、「私は昨日大学の図書館で勉強しました」という文だけみても、文中のフォーカスは「昨日」なのか、「大学」なのか、「図書館」なのかはわかりません。

ただ、実際に発話をしたときに、「昨日」を高く強く発音したり、「昨日」の後にポーズを置いた場合(つまり「昨日」にプロミネンスがある場合)、「昨日」が文のフォーカスであることがわかります。

「図書館」を高く強く発音したり、「図書館」の後にポーズを置いた場合は、図書館にプロミネンスがあり、「図書館」が文のフォーカスであることがわかります。

 

なお、自然にプロミネンスが決まる例もあります。

以下の例で考えてみます。

おいしくない?

聞き手がお菓子を食べた後に、微妙な顔をしていたとします。その様子を見て、話し手がおいしいか、おいしくないかがわからなくて、「おいしくない?」と疑問の意味で聞いたとします。

この場合、「おいしいか、おいしくないか」に当たる部分である「ない」の部分にフォーカスがあります。

音声的にも「ない」の部分が強調して発音されます(つまり、「ない」の部分にプロミネンスがあります。)

一方、話し手が自分がお菓子を食べた後に、それがおいしいと思って、聞き手にもそれを確認したい場合、「おいしい」の部分が重要になり、そこにフォーカスがあります。

音声的にも「おいしく」のところが強調して発音されます(つまり、「おいしく」の部分にプロミネンスがあります)。

ご興味のある方は

この記事では、フォーカスとプロミネンスの違いについて簡単に説明しました。

繰り返しになりますが、まとめると以下のようになります。

  • フォーカス:文中で情報的に中心になる部分、メッセージの中で話者が一番伝えたい要素
  • プロミネンス:フォーカスを音声的に実現したもの。メッセージの中で話者が一番伝えたい要素を聞き手によく伝わるように、その部分を目立たせること

ご興味のある方は、以下の記事もご覧ください。

参考文献