この記事では、技能実習生がどう日本語を学んでいるかを紹介します。
まず簡単に技能実習制度について説明してから、技能実習生が来日前・来日直後・実習後に日本語をどう学んでいるかを紹介します。
技能実習制度とは
技能実習制度は1993年に創設された制度です。
この制度を使って、外国国籍の者は、農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属業などの分野で、基本は3年間(最長5年まで)の間、就労できます。
「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)第1条では、技能実習の目的として以下が掲げられています。
技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする。
技能実習制度の目的は、技術移転による国際協力の推進であり、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。」(第3条第2項)ともあります。つまり、労働力不足を補うために行ってはいけないことになっています。
ただ、実質は、日本人がやりたがらない単純労働で、人手不足を補うための労働力として使われているという現状があります。
また、制度的に3年間は転籍が原則認められていないことも問題になっています。
実習生の多くは借金をして来日しているため、低賃金や職場での不当な扱いを受けても声を上げることができないケースも多いです。
職場に待遇等で不満がある場合に、失踪して不法滞在するケースも増えており、2018年には失踪者が1年で9,052人に上っています。
このような状況を受けて、2023年4月、政府の有識者会議は、技能実習生の受入れ制度を廃止し、新たな制度への移行を求める中間報告書を発表しています。
技能実習生の日本語教育
来日直後の講習
技能実習生は日本で原則3年生活しているわけですが、日本語はどう学んでいるのでしょうか。
実は、技能実習法自体には実習生の日本語学習に関する規定はありません。
ただ、その施行規則で、技能実習生は来日後2か月(入国前に1か月以上の講習を受けていた場合は1か月に短縮可)程度、雇用を始める前に講習を受けることが定められています。その講習科目には、以下の通り、日本語が含められています(施行規則第10条第2項7(ロ)より抜粋)。
- 日本語
- 本邦での生活一般に関する知識
- 出入国又は労働に関する法令の規定に違反していることを知ったときの対応方法その他技能実習生の法的保護に必要な情報(専門的な知識を有する者(第一号団体監理型技能実習に係るものである場合にあっては、申請者又は監理団体に所属する者を除く。)が講義を行うものに限る。)
- (1)から(3)までに掲げるもののほか、本邦での円滑な技能等の修得等に資する知識
ただ、施行規則では①~④の合計時間が定められているだけで、各科目の時間数・割合は監督団体が自由に定めることができます。なので、監督団体の講習担当者が日本語教育を行っているケースや、講習自体を日本語学校や研修センターに委託しているケースなどがあります(荒島・吉川 2021)
つまり、制度上は、技能実習生は日本語ができなくても、来日後2か月講習を受ければ働けるということになっています。
(なお、2016年から技能実習に含められた「介護」は別です。介護は、職場での日本語コミュニケーションが必須になることから、1年目(入国時)は日本語能力試験の3級程度が望ましい水準、4級程度が要件となっています。)
とはいえ、実際は、母国で数か月~半年ほど日本語の講習を受けてから、来日するケースが多いようです。
また、就労後も地域のボランティアの日本語教室に通う実習生もいます。
来日前の日本語研修
では、来日前はどのような日本語研修を受けているのでしょうか。
『ルポ 技能実習生 (ちくま新書)』では、2023年現在、技能実習生の最大の送り出し国であるベトナムで、来日前の日本語研修を行う訓練センターを取材しています。
その訓練センターでは、技能実習候補生が6か月ほど日本語を学ぶのですが、送り出し機関のスタッフ自らが「軍隊式」と呼ぶ教育スタイルを採用しています。
1日の流れは以下のようになっています。
- 6時 ラジオ体操
- 6時半~ 清掃(1時間)
- 8時~ 1時間 x 6コマ(授業の間に15分休憩・昼休み・午後の清掃)
- 16時半~ ラジオ体操
- 18時 夕食
- 19時~22時 自習 1時間 x 3
- 22時半 消灯
ラジオ体操から1日がはじまるのがすごいですね。訓練センター内では、全員がユニフォームを着用します。その訓練センター内にはあらゆる場所に「労働は幸福をもたらす」などの日本語の標語が書かれてあるそうです。
また、日本語のみならず、「コップやタオルなど、個人のものであって、使いまわしをしない」などの日本の文化や風習なども学びます。
許可があれば月に一度帰省が可能ですが、普段は寮と学校を往復する生活のようです。
これはベトナムにおける一つの研修センターの例で、国・地域によってさまざまな日本語学習形態があるようです。
実習開始後の日本語学習
上記の通り、実習生は来日後に講習を受けた後、就労します。
就労後の日本語学習については、受け入れ先の判断で以下が推奨されているだけで、規定などはありません(真嶋 2021, p. 10)。
- 必要な日本語指導を行う
- 日本語教育機会の情報を与え、本人に任せる
- 地域ボランティア日本語教室等の情報を実習生に伝え調整する。
なお、就労開始後、日本語を積極的に学ばない実習生も多いようです。
そもそも日本語を学ぶ目的で来日していないことや、普段日本人と話す機会がないこと、日本語ができなくても日常生活でさほど困らないこと、仕事が重労働だったり残業があったりして教室に通えないことが理由としてあげられています(真嶋 2021)。
ボランティア日本語教室に通う実習生は、日本語力を向上目的だけでなく、居場所や交流の場として活用している人も多いようです。
ただ、日本語教室での留学生向けの文法積み上げ式の教材を使っていたり、日本語能力試験対策中心であったりすることもあり、生活する上で必要な日本語という彼らのニーズにこたえられていないという指摘もあります(真嶋 2021)。
参考文献
技能実習生と日本語教育について紹介しました。参考にした文献は以下のとおりです。
国内での技能実習先での様子のみならず、ベトナムの技能実習生の故郷や訓練センターの様子なども取材しています。技能実習制度について知りたい方におすすめです。
『ルポ 技能実習生』と同じ著者が書いた本で、国内での取材が主になっています。
技能実習生の姿を可視化し、低賃金で退屈な仕事を「外国人まかせ」にする「人手不足の不都合な真実」をえぐり出すことが本書の目的であると著者は言っています。
建設業・農業・漁業、縫製業、介護等の分野でどのように実習生が就労しているかを知ることができます。
技能実習生が、ベトナム、ミャンマー、中国などそれぞれの送り出し国でどのような日本語教育を受けているか、来日後の技能実習生が受け入れ機関でどのような生活や日本語学習を行うのかを紹介しています。
それ以外にも、台湾や韓国の例や地域日本語教室の課題、介護分野の技能実習生についても扱っています。
技能実習生の日本語教育について、もう少し詳しく知りたいという方にはお薦めです。