登録日本語教員とは?
登録日本語教員とは、日本語教師の国家資格の名称です。
後程詳述しますが、今まで日本語教師になるために、特に決まった資格などは必要がありませんでした。
2023年5月26日に可決・成立し、6月2日付で公布された「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(「日本語教育機関認定法」)により、国家資格としての登録日本語教員の創設が決まりました。
日本語教育機関認定法については、2024年4月から施行予定です。
この記事では、登録日本語教員が創設された経緯と、登録日本語教員になるために必要な試験等について説明します。
登録日本語教員が創設された経緯
日本語教育のニーズの高まり・多様化、課題への対応
そもそもの背景として、国内外での日本語教育のニーズの高まり・多様化に伴い、国として日本語教育を推進する流れができたということがあります。
国内の日本語教育は、そもそも留学生対象の日本語教育が主でした。
ただ、近年は日本語学習者の数も増加しているだけでなく、日本での生活者や就労者への日本語教育の必要性など、学習者のニーズも多様化しています。
ただ、こういった日本語教育に携わる専門の人材が不足していたり、日本語教師の給与水準が低かったり、日本語教育機関の質が確保できていないという課題があります。
現在、国内で生活する日本語学習者に対する日本語教育はボランティア頼みなところが非常に多いです。
また、質という意味でも、日本語教育機関の中には教育の質のモニターが不十分な学校もあると指摘されていました(参考:日本語学校の教育の質の担保を 留学生争奪戦 「金の卵」に群がる産業界と大学――機能不全の日本語教育)。「留学」ビザで来日したものの、アルバイトが優先で、日本語が身に着いていないというケースも複数報告されています。
こういった状況を鑑みて、2019年には、国内外の外国人への日本語教育の充実・拡充を促すための法律である「日本語教育推進法」が可決されました。
日本語教育推進法はいわゆる理念法ですが、今回の登録日本語教員の創設は、この日本語教育の充実・拡充を促すための大きな流れの一つと捉えることができます。
日本語教師の質の確保
今まで、日本語教師という職業は国家資格ではなく、採用条件が一定ではないという課題がありました。
現在、日本語学校等で日本語教師として働きたい場合は、以下の3つの資格のうちどれか(または複数)を満たしていることという条件が課されることが主です。
- 大学・大学院で日本語教育に関する課程を履修して、所定の単位を取得・卒業した者
- 日本語教師養成機関等で420単位以上の日本語養成講座を受講・修了した者
- 公益財団法人日本国際教育支援協会が実施する日本語教育能力検定試験に合格した者
要するに、大学や養成講座等での単位取得修了や日本語教育能力検定試験、その他の勤務経験等で、教員の質を確保していたわけです。
ただ、大学・養成講座等によって授業の内容はまちまちです。教育実習の量もプログラムによって差があります。
また、現在の日本語教育能力検定試験は筆記試験で、知識を問うものであるため、実際の教師としての資質・能力を図るには不十分であるといえます。
今回、登録日本語教員という国家資格を作ることにより、全国的に水準が確保され、教員の質を保証するという目的があります。
日本語教育機関の質の確保
また、登録日本語教員とセットで考えなければならないのが、現在の日本語教育機関の質の確保です。
現在、日本語教育は、日本語学校や大学、地域教室等で行われています。
このうち、在留資格「留学」で学習者が学べる機関は、法務省告示校(=大学等以外で、外国人留学生に留学ビザが発給できる日本語学校)、専修学校、各種学校、大学等になっています。
ただ、上記のとおり、これらの日本語教育機関の質が確保されているわけではないことが問題視されてきました。
今回の「日本語教育機関認定法」により、大学等もある程度の影響は受けると思いますが、一番影響を受けるのは現行の法務省告知校だと考えられます。
というのも、今後は、法務省令が改正され、認定日本語教育機関であることを、在留資格「留学」による生徒の受け入れを認める要件となるようだからです(参考:「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案(仮称)の検討状況について」2023年1月, p. 9)。
今回の「日本語教育機関認定法」では、現行の日本語教育機関は、「認定日本語教育機関」となることで、自らが日本語教育課程を適切かつ確実に実施することができる日本語教育機関である旨の、文部科学省の認定を受けることができるとしています。
一応義務ではないようですが、在留資格「留学」の発給の有無が関わってくるとなると、「留学」ビザの発給を行いたい現在の法務省告知校の多くが、認定日本語教育機関になることを考えるでしょう。
(なお、法務省告示校以外の専修学校・各種学校・大学は、学校教育法で規定されていることもあり、これらの学校等が今後、どこまで認定日本語教育機関の認定を受けるかどうかはよくわかりません。)
なお、この認定を受けるためには、授業を担当する講師が登録日本語教員である必要があります。つまり、登録日本語教員という一定の質が保証された教員を雇わないと、そもそも認定日本語教育機関として認められないということです。
なお、認定を受けるための条件として、そのほかにも自己点検や情報公表、国に定期的な報告をするなどがあります。また、適切な実施がされていない場合は、文部科学大臣からの勧告・是正命令を受けることもあります。
登録日本語教員になるには
筆記試験&教育実習
「認定日本語教育機関」で勤務したい場合には、登録日本語教員になる必要が今後は出てきます。
(なお、ボランティアや家庭教師で働く場合は、登録日本語教員になる必要はありません。あくまで、認定日本語教育機関で働きたい場合です。)
では、登録日本語教員になるためには何が必要になるのでしょうか?
日本語教育機関認定法第22条~27条では、以下が必要になると定められています(実際の試験の内容等の詳細は今後決められていくと考えられます。)
- 筆記試験①(基礎試験):日本語教育に関する基礎的な知識及び技能
- 筆記試験②(応用試験):日本語教育に必要な知識及び技能の応用
- 登録実践研修機関での実践研修
特徴として、筆記試験が基礎試験と応用試験の2つに分かれていることと、登録実践研修機関での実践研修(教育実習)が義務化されていることがあげられます。
ただ、日本語教師養成課程を有する、大学や専門学校等での課程を修了した場合等は、筆記試験①は免除になる予定です。(なお、養成講座を提供する大学や専門学校等は、今後「登録日本語教員養成機関」にならなければならなくなる予定です)
また、日本語教師養成課程では、教育実習も組み込まれていると考えられます。
なので、日本語教師養成課程を受講する場合は、実質は筆記試験②(応用試験)の合格+座学と実習を組み合わせた養成課程を修了することで、登録日本語教員の資格がとれるという流れになるのではと考えられます。
登録日本語教員の教育内容
登録日本語教員の養成における教育内容としては以下のようなものが提案されています(「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案(仮称)の検討状況について」2023年1月, p. 19より引用)。
【社会・文化・地域】
(1)世界と日本の社会と文化 (2)日本の在留外国人施策 (3)多文化共生 (4)日本語教育史 (5)言語政策 (6)日本語の試験 (7)世界と日本の日本語教育事情【言語と社会】
(8)社会言語学 (9)言語政策と「ことば」 (10)コミュニケーションストラテジー (11)待遇・敬意表現 (12)言語・非言語行動 (13)多文化・多言語主義【言語と心理】
(14)談話理解 (15)言語学習 (16)習得過程(第一言語・第二言語) (17)学習ストラテジー (18)異文化受容・適応 (19)日本語の学習・教育の情意的側面【言語と教育】
(20)日本語教師の資質・能力 (21)日本語教育プログラムの理解と実践 (22)教室・言語環境の設定 (23)コースデザイン (24)教授法 (25)教材分析・作成・開発 (26)評価法 (27)授業計画 (28)教育実習 (29)中間言語分析 (30)授業分析・自己点検能力 (31)目的・対象別日本語教育法 (32)異文化間教育 (33)異文化コミュニケーション (34)コミュニケーション教育 (35)日本語教育とICT (36)著作権【言語】
(37)一般言語学 (38)対照言語学 (39)日本語教育のための日本語分析 (40)日本語教育のための音韻・音声体系 (41)日本語教育のための文字と表記 (42)日本語教育のための形態・語彙体系 (43)日本語教育のための文法体系 (44)日本語教育のための意味体系 (45)日本語教育のための語用論的規範 (46)受容・理解能力 (47)言語運用能力 (48)社会文化能力 (49)対人関係能力 (50)異文化調整能力
筆記試験はこの中のものを対象に出題されると考えられます。
まとめ&ご興味のある方は
登録日本語教員については、2024年4月の施行に向けて、試験や実践研修の内容や実施方法など、今後さらに具体化していく予定です。
まとめると以下のようになります。
- 登録日本語教員とは、日本語教師の国家資格の名称のこと。2023年6月公布の「日本語教育機関認定法」により、創設が決まる。
- 登録日本語教員が創設された背景には、日本語教育機関・日本語教員の質の確保の必要性があげられる。
- 登録日本語教員になるには、筆記試験2つと実践研修が必要となる予定。日本語教師養成課程を受講する場合は、実質は筆記試験②(応用試験)の合格+座学と実習を組み合わせた課程を修了することで登録日本語教員になれると考えられる。
なお、新制度導入にあたっては、移行期間が設けられる予定で、現職の日本語教師・日本語教育機関については、5年程の経過措置も取られる見込みです。
なので、2024年4月から5年ぐらいかけて上記の制度に移行する形になると考えられます。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
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- 2020年6月23日 日本語教育推進に関する基本方針の閣議決定
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