アクセントの平板化とは?
アクセントの平板化とは、もともとは下がり目のあったアクセントが、下がり目のない平板型になったことを指します。
よく紹介される例は「図書館」です。
「図書館」は東京式アクセントでは、以下のように発音していました(*アクセントの低いところには下線を入れています。)。
- トショカン (低高低低)
「ト」が低く、「ショ」であがり、その後「カ」でまた下がります。「ショ」と「カ」の間で、高⇒低に下がっています。つまり、アクセントに下がり目があります。
ただ、現在、「図書館」を発音するときに、以下のように発音する人もいます。
- トショカン (低高高高)
この場合、「ト」のみ低く、それ以降はすべて高くなっています。アクセントに下がり目がありません。
(このような、第1拍が低くて、それ以降は高いというアクセントを「平板型」といいます。)
「図書館」の例のように、もともとは下がり目のあるアクセントが、下がり目のない平板型になっていることを「アクセントの平板化」といいます。
アクセントの平板化の例
アクセントの平板化は大正時代から、「ガラス」「インキ」「ピヤノ」などの外来語の発音で、観察されているようです(小長光 2019)。
現在は、特に若者の間で平板化は進んでいると言われています。
アクセントの平板化の例として、以下のようなものがあります(小河原 2021、小長光 2019)。外来語は平板化されることが多いようです。
- トレーナー:トレーナー(低高低低低)→トレーナー(低高高高高)
- ギター:ギター(高低低)→ギター(低高高)
- リハーサル:リハーサル(低高低低低)→リハーサル(低高高高高)
- アドレス:アドレス(高低低低)→アドレス(低高高高)
- 化粧水:けしょうすい(低高低低低)→けしょうすい(低高高高高)
- 生徒会:せいとかい(低高高低低)→せいとかい(低高高高高)
なお、アクセントの平板化は、「NHK日本語発音アクセント新辞典」などのアクセント辞典に反映されているものもあります。
例えば、「トレーナー」は1985年版のアクセント辞典では、「トレーナー(低高低低低)」という起伏式アクセントで記載されていました。1998年の改訂版では、衣服の一種を指すトレーナーの場合、平板式の「トレーナー(低高高高高)」が主なアクセントとして追加されています(小河原 2021)。
アクセントの平板化の理由
平板化の理由としてよく言われるのは、コスト削減というものです。
アクセントの下がり目がある場合、どこに下がり目があるかを覚えなければいけませんが、平板化すると1拍目が低くてそれ以外は高いのですから、覚える必要がなくなります。つまり、記憶する負担が減ります。
また、下がり目を作ると、腹筋に多少負担がかかりますが、平板式だとその発音の労力もいらなくなります。
なお、アクセントの平板化は、慣れ親しんでいる語ほど起こりやすいと言われています。
つまり、「化粧水」をよく使う人ほど「けしょうすい(低高高高高)」、バイクが好きな人ほど「バイク(低高高)」と平板化アクセントを使う傾向があるということです。
平板化アクセントを使うことで、自分自身の専門性を示したり、そのグループ内の仲間意識につながることもあるようです。
まとめ&ご興味のある方は
この記事ではアクセントの平板化について簡単に説明しました。まとめると以下のようになります。
- アクセントの平板化とは、もともとは下がり目のあったアクセントが、下がり目のない平板型になったことをいう。
- 平板化の理由としては、記憶の負担軽減や発音の労力の削減などの、コスト削減が挙げられている。
- 平板化は慣れ親しんでいる語ほど起こりやすいと言われている。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
- 東京式アクセントについて(平板型・起伏型(頭高型・尾高型・中高型))
- 「拍」と「音節」の違いについて
- アクセント、イントネーション、プロミネンスの違いについて
- ピッチアクセントとストレスアクセントの違いについて
- 開音節と閉音節について(英語・日本語の違い)
- アクセントの滝とアクセント核の違いについて
参考文献
- 相澤正夫(2001年10月1日)『国語研の窓 第9号 解説:アクセントの平板化』国立国語研究所 ことば研究館(アクセス日:2023年6月12日)
- 小河原義朗(2021年6月30日)『ことばの疑問:最近、日本語を平たく言うアクセントが気になります。誤りではないでしょうか』国立国語研究所 ことば研究館(アクセス日:2023年6月12日)
- 小長光哲郎(2019年6月24日)『日本語アクセントが平板化 若者からひたひた進行中』AERA(アクセス日:2023年6月12日)