アスペクト(相)とは何か?テンスとアスペクトの違い

アスペクトとは?

この記事では、アスペクト(相)について説明します。

テンスというのは、動きの変化の局面を表す文法カテゴリーです。日本語では相といいます。

アスペクトは、ロシア語のvid(view, visionと同義)の訳語で、事態の見方(捉え方)を表すものです(斎藤他 2015, p .4)。

例えば、「食べる」という出来事は、下記のように、「食べ始める」「食べている」「食べ終わる」などに細分することができます。

 

つまり、「食べる」という動作には、、出来事の始めから終わりまで様々な局面があります。

アスペクトは、ある動きがどの局面にあるかを示すものです。

日本語のアスペクト表現の例

日本語のアスペクト表現の例として、以下のようなものがあります。

動きの局面表現例文
直前~かける

~かかる

~ところだ

彼は何かを言いかけて、どこかに行ってしまった。

転倒したAさんは、Bさんの上に倒れかかった

今から出発するところだ

開始~はじめる

~だす

ご飯を食べはじめた

急に雨が降りだした

継続~続く

~続ける

彼女はずっと話し続けた

雨が降り続く

進行~ている

~ところだ

ご飯を食べている

お茶を飲んでいるところだ

終了~おわる

~ばかりだ

~ところだ

本を読み終わる

髪を切ったばかりだ

コーヒーを飲んだところだ

結果~ている

~てある

花が落ちている

花が飾ってある

なお、「~ている」や「~ところだ」のように同じ文型で複数の局面を表すものもあります。

「~ている」という表現は「走っている」「ご飯を食べている」というと、動作が継続して行われているという「進行」を表します。

一方、「花が落ちている」「コップが割れている」「電気が消えている」というと、変化の結果が継続しているという「結果残存」の意味になります。

「ところだ」についても、「歩くところだ」というと動作の直前を表しますが、「歩いているところだ」というと動作の進行、「歩いたところだ」というと動作の終了直後を示します。

テンスとアスペクトの違い

時間を表す文法カテゴリーとして、アスペクトの他に、テンス(時制)もあります。

アスペクトは動きの変化の局面を表すものでした。テンスは、ある出来事がどの時点で起きたかというものを示すものです。

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テンスとアスペクトの違いは、例を見るとわかりやすいです。

以下の①②は、テンスは違いますが、アスペクトは同じという例です。

  1. 私はコーヒーを飲んでいる。
  2. 私はコーヒーを飲んでいた。

 

①も②も「飲んでいる」「飲んでいた」と「~テイル」を使っています。なので、動作の局面であるアスペクトは「進行」になります。

一方、①は「飲んでい」で現在の時制を、②は「飲んでい」で過去の時制を表しており、テンスは①と②で異なっています

 

次の例は、テンスは同じですが、アスペクトは違うという例です。

  1. 私はコーヒーを飲みかけた。
  2. 私はコーヒーを飲みおわった。

①は「飲みかけた」で、動作の局面であるアスペクトは「直前」になります。②は「飲みおわった」で、アスペクトは「終了」を示しています。

テンスについては、①も②も「飲みかけ」「飲みおわっ」と「タ形」を使っており、「過去」になります。

 

まとめ

この記事ではアスペクトについて説明しました。まとめると以下のようになります。

  • アスペクトというのは、動きの変化の局面を表す文法カテゴリーのことをいう。
  • 時間を示すカテゴリーには、テンスもある。テンスはある出来事がどの時点で起きたかというものを示すものである。

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

ご興味のある方は

日本語のアスペクトについて学びたい方は、以下の入門書が分かりやすいと思います。

入門書ですが比較的詳しく説明してあります。

日本語教育関係の入門書であれば、だいたいどの教科書でも紹介されています。

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また、専門書になりますが以下のような文献もあります。

アスペクト・テンスについて、日本語研究・歴史的研究・対照研究の3つの観点から多角的にアプローチしている論文集です。

上下2巻になっており、1巻目が「ル形」について、第2巻が「テイル形」「タ形」を扱っています。

 

少し古い本ですが、アスペクト・テンスについて議論しています。方言におけるアスペクトについても言及されています。