言語学の諸分野
言語学には様々な分野があります。
言語学は様々な分野があるのですが、この記事では、言語学の中核をなす以下の6つのコア分野について説明します。
- 音声学
- 音韻論
- 形態論
- 統語論
- 意味論
- 語用論
これらの分野は、音や構造、意味など、言語そのものを構成する要素を研究対象としているという意味で、「core fields(コア分野)」と言われることもあります。
それ以外にも、社会と言語、歴史と言語、心理と言語など、他の分野と言語の関わりを研究する分野としては以下のような分野があります。
- 社会言語学
- 歴史言語学
- 対照言語学
- 応用言語学
- 心理言語学
- コーパス言語学
- 比較言語学
- 認知言語学
ちなみに、このサイトは「旅する応用言語学」という名で運営していますが、「応用言語学」というのは、現実の社会の様々な言語に関する課題に対応していく学問分野です。(詳しくは「応用言語学とは」をご覧ください)
言語学のコア分野
6つのコア分野の関係性
言語学の中核をなす6つの分野の関係性は以下のようになります。
音を研究するのが音声学・音韻論、語や文の構造を研究するのが形態論・統語論、語や文の意味を研究するのが意味論・語用論になります。
音声学・音韻学
音声学(phonetics)と音韻論(phonology)は、音に関する研究です。
音声学は、世界中で用いられる音声を対象とする研究分野です。
音がどう産出されるか(調音音声学)、音がどう伝播するか(音響音声学)、音をどう知覚するか(知覚音声学)などを研究します。音響音声学の知見は、自動音声認識などにも応用されています。
参考にした本音声学とその分野について紹介したいと思います。 今回の記事を書くときに、以下の本を参考にしています。 川原繁人(2015)音とことばのふしぎな世界: メイド声から英語の達人まで. 岩波書店[…]
一方、音韻論は、特定の言語で音の違いがどのように意味の区別にかかわっているかを研究します。
例えば、日本語で話している場合、「ライス」の「ラ」の音を[r] の音で発音しても[l]と発音しても、両者が同じ「ライス」というお米の意味で伝わるでしょう。
ただ、英語の場合、rice(お米)というかlice(シラミ)というか、[r]と[l]の違いで意味が全然変わってきます。
つまり、英語の場合は/r/と/l/の音を区別するが、日本語はしないということになります。
このように言語によって音の体系は違うのですが、音韻論は、こういったそれぞれの言語の音の体系や、言語間の音体系の比較などを研究対象にします。
音声学と音韻論の違い音声学(phonetics)と音韻論(phonology)は、どちらも「音声」を扱うということで似ています。二つは重複することも多いのですが、以下のような違いがあります。 音声学:言語音の諸特徴を記述す[…]
形態論・統語論
形態論(morphology)・統語論(syntax)は、語や文の構造を研究する分野です。
形態論は主に語の構造を扱います。
例えば、「春風」は「春」と「風」にわけても、「春」と「風」のそれぞれが意味を成しています。一方、同じ漢字二字で構成される「台風」は、「台」と「風」にはわけると意味がわからなくなってしまいます。意味を成す最小単位を形態素といいますが、形態論は、形態素からどう語が構成されているのかを考えます。
また、新しい語が形成される語形成についても扱います。
形態論とは何か?この記事では言語学に一分野である形態論についてごく簡単に紹介します。英語ではMorphologyですね。 Morphologyというのは、ギリシャ語の「形状」という意味の語根の「morph」から[…]
統語論は、句・文レベルの構造を扱います。
例えば、「かわいい妹のかばん」といったときに、「かわいい」のは「妹」でしょうか。それとも「かばん」でしょうか。この文は曖昧文でどちらの意味にもとれるのですが、なぜこういう曖昧文ができてしまうのかというのを、統語論では句・文の構造を分析することで明らかにします。
統語論とは何か?この記事では言語学に一分野である統語論についてごく簡単に紹介します。英語ではSyntaxですね。 Syntaxというのは、ギリシャ語の「配列(arrangement)」を意味するsyntaxis[…]
意味論・語用論
意味論(semantics)と語用論(pragmatics)は、意味を研究対象にした分野です。
意味論は、主に語や文が表す意味を研究します。
例えば、「手」という語を一つとっても、「手が大きい」「手をたたく」などといった体の一部を指すものから、「手を貸して」「手に負えない」といった比喩的表現、「孫の手」のような別のものを指す表現など様々な使われ方をします。語が他の語とどう関連しあっているのか、そして人はどのように意味を解釈するのかを研究対象とします。
(といったものの、意味論は意味に対する考え方によってアプローチも様々です。)
意味論とは?意味論とはこの記事では言語学の意味論(semantics)について紹介します。名前のとおり「意味論」というのは、語や文が表す「意味」を研究する分野です。 語の意味を調べるときに、辞書で調[…]
語用論は、主に実際に言語が使われる場面での意味を研究します。
「明日遊びに行かない?」という誘いに対し、「明日は用事があるんだ」という返答があると、基本は断られたととるでしょう。ただ、使用する場面を無視して、「明日は用事があるんだ」という文単独で考えると、「明日は用事がある」という事実を述べているだけで、別に「断り」という意味はないはずです。
言語が使用される場面では、話し手も聞き手も相手の意図を探ったり推測をしたりして、様々な言外の意味が生じてきます。このような言外の意味も含めて、実際に言語が使われる文脈と関連させながら意味を研究するのが語用論になります。
語用論とは?語用論は英語では「Pragmatics」のことです。「Pragmatic」とは「実用的な」「実利的な」「実践的な」という意味ですが、学問としての語用論(Pragmatics)はある社会文化的状況の中での言語の使用に着目した分[…]
分野の関連性
とはいえ、この6つの分野がすっきり分けられるわけではなく、研究対象が一つの分野だけで完結しないことが多いです。
二つ以上の語を組み合わせて作る複合語を例に考えてみます。
複合語は語の構成に関するものなので、形態論に含まれます。ただ、複合語の中には、「ごみ」+「はこ」→「ごみばこ」などのように、2つ目の語「はこ」の「は」が「ば」に濁音化するなど、発音の変化を伴うものも多いです。
つまり、複合語は語の構成(形態論)のみならず、音声学にも関連する現象になります。
なので、複数の分野の知見をもって研究対象にアプロ―チしていくことも多いです。
まとめ&ご興味のある方は
言語学のコア分野といわれる6分野について簡単に紹介しました。まとめると以下のようになります。
- 言語学のコア分野といわれるものに、音声学・音韻論・形態論・統語論・意味論・語用論の6つがある。
- 音声学・音韻論は音を研究する分野である。
- 音声学は、主に音がどう産出され、伝播し、知覚するかを研究対象とする。
- 音韻論は、主に特定の言語の音の体系を研究対象とする。
- 形態論・統語論は語・句・文の構造を研究する分野である。
- 形態論は、主に語の構造を研究対象とする。
- 統語論は、主に句・文の構造を研究対象とする。
- 意味論・語用論は意味を研究する分野である。
- 意味論は、主に語・文の表す意味を研究する。
- 語用論は、主に実際に言語が使用される場面で現れる意味を研究する。
言語学入門コースだと、この6分野はだいたい網羅すると思います。
参考文献
有名な言語学の入門書です。言語学全般について丁寧に説明してあります。
言語学の入門書です。言語学の各分野についてコンパクトにまとめられていて、読みやすいですし、わかりやすいです。