変体仮名とは?
変体仮名とは?
変体仮名とは、1900年(明治33年)8月21日の小学校令施行規則以降、学校教育で用いられていない平仮名を指します。異体仮名ともいいます。
平仮名は平安時代に生まれましたが、明治初頭までは、平仮名の一つの音に複数の字母・字体がありました。
元になる漢字(字母)が違うものもありますし、同じ字母であっても、崩し方が違うもの(字形が異なるもの)もありました。
例えば、現在の「あ」という平仮名は「安」という漢字を崩してできたものです。ただ、この「あ」という平仮名のみならず、明治初頭までは「あ」という音を示すために、以下のように複数の平仮名がありました。
- 「」(「愛」の漢字を崩したもの)
- 「」(「阿」の漢字を崩したもの)
- 「」(「安」の漢字を崩したもの。現在の「あ」も「安」の漢字を崩したものだが、字形の違う形))
他の平仮名も同様です。もう一つ例を見てみます。
現在の「し」は、「之」の漢字を崩してできたものですが、以前は「し」の音を表すのに以下のような平仮名もありました。
- 「」(「志」の漢字を崩したもの)
- 「」(「四」の漢字を崩したもの)
- 「」(「新」の漢字を崩したもの)
- 「」(「事」の漢字を崩したもの)
- 「」(「之」の漢字を崩したもの。現在の「し」も「之」の漢字を崩したものだが、字形の違う形)
ちなみに、最近はくずし字を解読してくれるアプリも出ていますが、明治初期以前の古文書を読むためには、この変体仮名を学ぶことが必要になってきます。
1900年の小学校令施行規則
このように一つの音に対して複数の平仮名が存在するのはややこしいですし、学ぶほうの負担は大きいです。
なので、1900年(明治33年)8月21日の「小学校令施行規則第16条」および「第1号表」によって、1音につき1字のひらがなを使うことが定められ、現在の平仮名(50音図)に統一されました。
第16条の条文の一部です(赤字は追加)。
第十六条 小学校二於テ教授二用フル仮名及其ノ字体ハ第一号表二,字音仮名遣ハ第二号表下欄二依リ又漢字ハ成ルベク其ノ数ヲ節減シテ応用広キモノヲ選ブベシ
(1900年(明治33年)8月21日 小学校令施行規則より抜粋)
赤字の部分に、小学校において教授用に用いる仮名およびその字体は第1号表によると書いてありますね。
第1号表(画像の赤字の部分)では、現在の50音表が記載されています。
(画像:法令全書 明治33年 国立国会図書館デジタルコレクションより)
この後、学校教育で使われなくなった平仮名は、変体仮名と呼ばれるようになります。
変体仮名の種類
変体仮名の種類は大きく分けて3つあります。
①字母が違うもの
まずは、元になる漢字(字母)が違うものです。
上記にあげた「し」の例だと、「」(字母は「志」)、「」(字母は「四」)、「」(字母は「新」)、「」(字母は「事」)などが当てはまります。
②字形が違うもの
字母は同じなのですが、字形が違うものです。
上記にも述べましたが、「安」という漢字から「あ」ができましたが、同じ「安」からできた字形の違う「」もありました。
現在の「お」は、「於」の漢字を崩してできましたが、同じ「於」の漢字からは字形の違う「」という平仮名もあります。
このような字形の違うものも変体仮名に含まれます。
③崩しきる前のもの
最後は、現在の平仮名になる前の形のものです。
「あ」を崩し切る前は、「」と記載することもありました(現在の形より少し複雑になっています)。
同様に「左」という漢字からできた「さ」の平仮名も、略しきる前には「」という形もありました。
この崩し切る前の形も変体仮名に含められます。
現在の使用
現在も変体仮名は、店の看板や商品名などで使われることがあります。
変体仮名を使うことで、通常とは違う雰囲気を出すこともできますね。
特に、現在の変体仮名の例でよくあげられるのが蕎麦屋の暖簾です。
この看板は「きそば」と書かれています。
看板の真ん中の字は、「楚」を崩してできた「(そ)」です。
一番左の文字は、「者」を崩してできた「(は)」に濁点をつけたものです。
他にも商品名などで変体仮名は見られます。ツイッターでいくつか紹介されていましたので、一つ引用します。
「せんべい」を「せん遍゛以」と変体仮名(今では使われない昔の仮名)で表記する例はよく見ますね。記事では「草加特有」の表記ではとありますが、草加以外でも。全国的に偏りはあるのかな。私の撮った写真を添えておきます。▽東京新聞 https://t.co/CKL9A1G32X pic.twitter.com/mhQH2wHJmI
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) November 17, 2019
まとめ
この記事では変体仮名について紹介しました。まとめると以下のようになります。
- 変体仮名とは、1900年(明治33年)の小学校令施行規則以降、学校教育で用いられていない平仮名を指す。異体仮名ともいう。
- 変体仮名の種類としては、字母が違うもの、字形の違うもの、崩し切る前のものなどがある。
- 変体仮名は現在も店の看板や商品名などで使われることがある。
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※この記事で使用した変体仮名のフォントは、「 みんなの知識 ちょっと便利帳」のサイトに記載されていた、IPA情報処理推進機構の「MJ 文字情報一覧表変体仮名編」のものを使わせていただきました。