ジョン・デューイについて
ジョン・デューイ(John Dewey)(1859年ー 1952年)は、アメリカの哲学者です。
デューイの考え方は、言語教育を含む教育全般に大きな影響を及ぼしています。
現在のアクティブ・ラーニング、探求的学習、協働学習、問題解決学習、総合的な学習、クリティカル・シンキング、ロジカル・シンキング、シティズンシップ教育などにつながる考えがデューイの教育哲学にはあります。
デューイは92年の人生で、著書40冊、論文700本以上残しており、彼の思想を短くまとめることは不可能に近いです。
今回は特に言語教育に影響を与えた以下の3つの考えに絞って、簡単に紹介したいと思います。
- プラグマティズム
- プロセス重視
- 民主主義
①プラグマティズム
プラグマティズムは、日本語では「実用主義」や「実際主義」などと訳されます。
(なお、言語学で「プラグマティックス(Pragmatics)(語用論)」という分野がありますが、これとは無関係です。)
有名なプラグマティズムの思想家には、ウィリアム・ジェイムズ、ジョージ・ハーバート・ミード、チャールズ・サンダース・パースがいます。
デューイは、このプラグマティズムに影響を受けており、プラグマティズムの中でも重要な人物として紹介されることが多いです。(ただし、デューイ自身は、自らが「プラグマティズム」であるとは言っていないようです。)
プラグマティズムは、もともとはギリシャ語で「行為」、「事実」、「実践」、「問題」などを意味する「プラグマ(pragma)」から来ています。
プラグマティズムでは、経験や実践を重視し、知識というのは経験から生まれると考えます。また、理論も経験を振り返ることで生まれると考えます。
つまり、真実を、人々の行為、経験や実践から切り離すのではなく、人々の行為や実践のプロセスや、その結果から理解しようとします。
デューイは、学びにおける経験の大切さを述べています。
「Learning by doing(やりながら学ぶ)」というのはデューイの有名な概念ですが、行為することが、学びの起点と考えます。
当時の教育では、系統だってある学問の知識を暗記するということが主流でしたが、デューイはそのような暗記中心の教育に疑問を持っていました。学習者が受動的で、社会との接点が見つけづらいと感じていました。
学習者が何か課題を抱えていて、それを解決したいという気持ちがあること、そしてその課題解決に向けて行動することが必要だと考えたのです。
教師の役割は、何か指導をするというより、重要な課題を示し、学習者の興味をひきつけ、ともに問題を解決していくことです。
②プロセス重視
デューイは、学習を結果重視ではなく、プロセス重視で考えていました。
1916年に刊行された『民主主義と教育』において、教育を「連続的な成長のプロセス」であると考えています。
そして、この成長のプロセスそのものが、教育の目的であると言っています。
「連続的な成長のプロセス」と言っていますが、「連続的」というのは、常に過去・現在・将来の経験が連続しているということです。過去の経験は現在の経験にも影響を与えます。そして、現在の経験は、将来の経験にも影響を与えるので、連続しています。
一つの課題を解決した場合、それで完結するわけではありません。一つの課題が解決すると、そのほかの課題が出てきて、新たな課題が新たな学習の動機となります。その課題が終わると、次の課題が出てくると考えられます。
また、デューイは、「reflection(内省、振り返り)」も重視しています。
デューイは経験の大切さを述べていますが、経験というのは、ただ行動を積み重ねればいいわけではなく、その行動について振り返って考え、行動がどう結果につながったのかを考えることとセットになっていると考えました。
この内省を行うことで、現在と過去の経験を結び付けられ、さらに、将来の課題解決の手がかりにもしていけます。
このプロセスの中で、学習者は常に自分を変容させていきます。
教育の目的とは、この「連続的な成長のプロセス」そのものだとデューイは考えました。
③民主主義
デューイにとって、民主主義は「政治の一形態」ではなく、協同的な生き方で、共同生活の一つの様式であると考えます。
多様な集団が存在し、多様な価値観が尊重され、これらの集団が自由に相互に接触している社会が民主主義になります。
こういった理念のもと、デューイは、学校そのものが、民主主義の性質をもった小さな社会として機能するべきだと考えました。
学習者は、学校生活を送る中で、民主主義の社会の一員として、多様な価値観・関心の中で、他者と協働する力を養っていきます。
また、学びというのは、目的意識を持って行うものであり、現在の状況を把握するだけではなく、現状を改善していくものです。学習者は、過去の経験を活用しながら、よりよい社会のために行動していく力も身につけて行きます。
まとめ&ご興味のある方は
ジョン・デューイの概念について簡単に紹介しました。まとめると以下のようになります。
- デューイは、プラグマティズムの牽引者の一人としてよく紹介される。
- デューイは、学びにおける経験を重視している。
- デューイは、教育は連続的な成長のプロセスであると考えている。また、行動のみならず内省も重視している。
- デューイは、学校は民主主義の性質をもった小さな社会として機能すべきと考え、その中で学習者が協働する力や、現状を改善する力を養うべきと考えた。
ご興味のある方は以下の本を参照ください。
デューイの思想についてわかりやすくまとめている本です。デューイの生涯についても丁寧に説明してあり、どういった環境でデューイが思想を育んでいったかがよくわかります。この記事を書く際に、参考にしました。
上下2巻になっています。デューイの有名な著作の1つです。原文に当たりたい方はこちらをご覧ください。
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