言語学の意味論(semantics)とは何か?

意味論とは?

意味論とは

この記事では言語学の意味論(semantics)について紹介します。

名前のとおり「意味論」というのは、語や文が表す「意味」を研究する分野です。

 

語の意味を調べるときに、辞書で調べるという人は多いと思います。

ただ、辞書に記された意味だけでは、語の意味をとらえるには十分ではありません。

「春」という語は、「夏」「冬」「秋」といった語や、それらの総称である「季節」という語にも関係しています。つまり、語というのは、他の語とのネットワークの中で存在しているものでもあります。

また、「春」という語は四季の一つではありますが、人によっては「桜」や「入学式」をイメージしたり、「花粉症」をイメージしたりと、「春」という一つの語をとっても、その人の経験に応じて、様々な意味を持っていると考えられます。

では、語の意味とは何なのでしょうか。そして、人はどのように意味を解釈しているのでしょうか。

こういった問題に取り組むのが意味論です。

 

意味論では、意味現象を詳細に記述し、その意味現象の基底にある一般的原則を明らかにしようとします(高橋他 2021)。

意味論は分野によってもアプローチの仕方が全然異なるのですが、語の意味に関しては、類義語、対義語、多義語、意味がどう変化していくかや、意味の拡張などが扱われます。

ちなみに、意味の拡張というのは、「鞄を抱える」という「抱える」という身体的な動作が、「不安を抱える」などといった抽象的な概念にも応用されていくことなどが含まれます。

意味論と語用論の違い

言語学で「意味」を研究する分野は、意味論と語用論に分かれます。

両者の区別は必ずしも明確ではありませんが、文字通りの語・文の意味を探るのが意味論で、言外の意味も扱うのが語用論と区別されることが多いです。

例えば、「この部屋寒くない?」と言った場合、文字通りにとると、この部屋が寒いか寒くないかを聞く疑問文になります。

意味論は、このような文字通りの語・文の意味を扱っていくことが多いです。実際に言語が使われる文脈はそこまで考慮にいれません

では、実際に「この部屋、寒くない?」という発話がされる場面を想定してみましょう。

クーラーがききすぎている部屋でこの発話を言った場合、「クーラーを消してほしい」という依頼の意味にもなりえます。真冬に暖房のついていない寒い部屋でこの発話があった場合は、同じ発話でも「暖房をつけて」という意味を暗示するかもしれません。また、すごく暑い部屋なのに「この部屋、寒くない?」と嫌味や皮肉で使う場面もあるかもしれません。

このように、実際の言語が使用される場面で生まれてくる、言外の意味やその解釈を扱うのが語用論になります。

意味論の各分野

意味論は、意味をどう捉えるかによって、形式意味論や認知意味論などに分かれます。

ここでは、形式意味論や認知意味論のみ簡単に紹介します。

形式意味論(formal semantics)

形式意味論は、論理学や数式を使って言語の形式的性質を研究する分野です。

様々な言語の意味の共通の部分を特定し、効率よく記述しようとします。

例えば、「∀」は数理論理学で「全ての」を表す記号ですが、この記号を使って、以下のように語の意味も説明しようとします。

  • ∀x (A (x) → B (x))
    すべてのxの要素について(∀x)、もしxがAであれば(A (x))、xはBでもある( B (x))

例えば、以下のように語を説明できます。

  • ∀x (dog (x) → animal (x))
    すべてのxの要素について、もしxが犬であれば、xは動物でもある。

これはほんの一例ですが、このような論理学・数式を使って、語の意味を説明していこうとします。

認知意味論

認知意味論は、人間の認知能力に注目しながら、意味を研究する分野です。1980年ごろから研究が盛んにされるようになりました。

「飲む」という語は、「何かの液体を飲む」というのが基本的な意味だと考えられますが、これが「条件を飲む」「涙を飲む」などの意味にも拡張していったと考えられます。

なぜこのように拡張していったかというと、人間の抽象的な概念の理解にも深く関係しています。人間は、認知的に、「ジュースを飲む」のように身体的に感じられる具体的な概念をもとに、抽象的な概念を理解していくと言われています。

人間の意味理解には、人間の心の仕組み、認知が大きく関係しています。認知意味論は、意味がどのように拡張・伸縮するのか、どう語がカテゴリー化されるのかなどを、人の認知能力と関連つけながら考察していきます。

もし認知意味論(認知言語学)に興味のある方は以下の記事もご覧ください。

まとめ&ご興味のある方は

意味論について簡単に説明しました。まとめると以下のようになります。

  • 「意味論」というのは、語や文が表す意味を研究する分野である。
  • 「意味論」と「語用論」はどちらも意味を扱う言語学の分野だが、文字通りの語・文の意味を探るのが意味論で、言外の意味も扱うのが語用論と区別されることが多い。
  • 意味をどう捉えるかによって、形式意味論や認知意味論などに分かれる。

言語学の各分野についてご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

参考文献

言語学の用語をまとめた辞典です。用語を確認したいときなど、一冊持っていると便利だと思います。

有名な言語学の入門書です。言語学全般について丁寧に説明してあります。

言語学の入門書です。言語学の各分野についてコンパクトにまとめられていて、読みやすいですし、わかりやすいです。