和製漢語とは
和製漢語とは、日本で作られた漢語のことです。
漢字・漢字自体は、西暦57年に後漢の光武帝が倭の国王に与えた「漢委奴国王」の金印も残っており、1世紀ごろには伝わっていたと考えられています。ただ、漢語・漢字が書記用として使われるようになったのは、4世紀~5世紀ごろからと言われています。
その後、漢語が長く使用されるのにつれ、本来の中国語にはない、日本特有の漢語(つまり、和製漢語)が作られるようになりました。
また、和製漢語は、幕末・明治時代に、主に欧米の新しい概念を導入するために多数作られました。幕末・明治に作られた語のことを「新漢語」と呼ぶこともあります。
なお、和製漢語と一口にいっても、いろいろな作られ方のパターンがあります。
この記事では、和製漢語の作られ方のパターンについて紹介します。
和製漢語の作られ方
① 訓読みを音読みにする
最初のパターンは、もともとは訓読みしていた和語の漢字表記を音読みすることにより作られたものです。
有名なのは、「返事(へんじ)」です。
「返事(へんじ)」はもともと「かえりごと」という和語があり、それに「返事」という漢字をあてていました。
ただ、それがいつの間にか、「返」の音読みである「へん」、「事」の音読みである「じ」を使って読むようになり、「へんじ」という和製漢語が作られました。
他の例としては以下のようなものがあります。
- 「ひのこと」→「火事」→「かじ」
- 「おほね」→「大根」→「だいこん」
- 「都(す)べ合わす」→「都合」→「つごう」
- 「ではる」→「出張」→「しゅっちょう」
② 訳語
次は、翻訳をする中で作られた漢語です。
特に、幕末~明治時代に西洋からもたらされた概念を表すために作られた「新漢語」によく見られます。
このパターンでの和製漢語が最初に見られたのは、杉田玄白らの1774年の『解体新書』です。『解体新書』では、「解剖・盲腸・軟骨・十二指腸・神経」などオランダ語の概念を、漢語を作ることで紹介したそうです(沖森他 2011)。
このパターンの和製漢語は、①新たに漢字を組み合わせてつくられたものと、②既にあった中国の古典語に新しい意味を与えたものがあります。(なお、後者の方は和製漢語に含まないと考える人もいます)
①の新たに漢字を組み合わせて作られた和製漢語の例は、以下があります。
科学、悲劇、喜劇、郵便、理想、目的、要素、哲学、野球
②の旧来の古典語に新しい意味を与えた和製漢語の例としては、「右翼」「左翼」があります。
「右翼」「左翼」というのは、昔の中国語では「右側にいる軍」「左側にいる軍」という意味でしたが、それが「保守派」「革新派」という政治的な新たな意味を与えられることになりました。
他にも②の例として、以下があります。
自由、文明、資本、文化、宗教、革命、観念、福祉
③ 同音による書き換え
このパターンは、同じ音ですが、違う漢字を用いて新たな漢字を作ることです。
第二次世界大戦までは漢字の使用について制限がなかったため、漢字の数が多く、また字体も複数ありました。
ただ、これでは不便だということで、1946年に当用漢字表が発表され、漢字の数が制限されます。
つまり、当用漢字表に記載されていない漢語は用いられなくなったのです。
ただ、当用漢字表以外の漢字を含んでいる漢語をどうするかということが問題になり、国語審議会が1956年に『同音の漢字による書き換え』を提案します。
以下のような例があります。
- 「暗誦」→「暗唱」
- 「慰藉料」→「慰謝料」
- 「衣裳」→「衣装」
- 「稀少」→「希少」
- 「長篇」→「長編」
- 「悖徳」→「背徳」
- 「悧巧」→「利口」
④ その他
上記以外にも、様々な和製漢語の作られ方があります。
「心を配る」→「心配」、「酒を造る」→「酒造」、「人を選ぶ」→「人選」のように、日本語の句表現から名詞を作るケースもあります。
「超~」「非~」「~化」「~心」「~性」「~的」「~界」などの接辞を使って作ったものもあります。
例えば、「~界」という接辞を用いたものでは、「社交界」「政界」「出版界」などがあります。
他には、「馬鹿」「野暮」「本当」など、当て字で作られたものもあります。
まとめ&ご興味のある方は
和製漢語とその作り方について簡単に説明しました。まとめると以下のようになります。
- 和製漢語とは、日本で作られた漢語のこと。
- 幕末・明治時代に、主に欧米の新しい概念を導入するために多数作られた和製漢語を「新漢語」と呼ぶこともある。
- 和製漢語の作られ方としては以下のようなものがある。
- 訓読みを音読みにしたもの
- 訳語として作られたもの
- 同音により書き換えたもの
- 句表現・接辞・当て字などを使って作られたもの
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
参考文献
- 沖森卓也他(2011)『図解 日本の語彙』三省堂
※今回の記事は主にこの本を参考にしました。この本にはさらに詳しく記載されているので、もしご興味がある方はこちらをご覧ください。 - 森山卓郎・渋谷勝己(編)(2020)『明解日本語学辞典』三省堂
- 衣畑智秀(編)(2019)『基礎日本語学』ひつじ書房
- 丸山 眞男・加藤 周一(1998)『翻訳と日本の近代』 岩波新書
- 国語審議会(1956年7月5日)『同音の漢字による書きかえ』(2023年2月22日アクセス)