日本語の色は形容詞?名詞?
日本語の色名
日本語の色を表すことばの品詞は結構複雑です。
「黒/黒い」「黄/黄色い」などは、名詞・形容詞の両方があります。
「ピンク」、「オレンジ」、「緑」などは名詞のみです。「ピンクい」「オレンジい」「緑い」などの形容詞形はありません。
(ただ、ピンクについては、「ピンクい」と形容詞化する地域もあるようです。)
つまり、日本語の色名には、形容詞・名詞のどちらの形も持つものと、そうでないものがあります。
形容詞・名詞形の両方を持つのは、青、赤、白、黒、黄色、茶色の6色です。それ以外の色は名詞のみとなります。
この記事では日本語の色の品詞と、その使い分けについて紹介します。
色の品詞
赤・青・白・黒(名詞・形容詞)
形容詞・名詞形の両方を持つのは、赤、青、白、黒、黄色、茶色の6色です。
このうち、以下の4色は古くから形容詞形・名詞形のどちらも存在します。
- 赤/赤い
- 青/青い
- 白/白い
- 黒/黒い
この4つが日本語での基本色だったのではないかという説もあります(小松 2013, p. 175)。
赤・青・白・黒の4色内では、以下のように、反対色としての対応があります(それ以外に、反対色を持つ色はないそうです。)
- 赤の反対色は白(例:運動会での紅組・白組、紅白歌合戦、吉事での赤と白)
- 赤の反対色は青(例:青かび/赤かび、青鬼/赤鬼、青紫蘇/赤紫蘇、青がえる/赤がえる)
- 黒の反対色は白(例:凶事での黒と白、容疑の白と黒、素人/玄人)
信号も赤信号/青信号といいます。ただ、実際、青信号は「青」というより「緑」に近いことも多いです。英語だとgreen lightになります。
また、青じそも、色は「緑」と思う人の方が多いでしょう。
この理由として、赤・青のペアで考えるという習慣から、このような名づけになったと考えられます。
また、もう一つの理由として、色名を重複させて副詞的に使えるのはこの4色のみとも言われています(小松 2013)。
- あかあかと、しらじらと(夜が明ける)、くろぐろと、あおあおと
この4つは特別な色だったのですね。
黄色・茶色(名詞・形容詞)
その後、「黄色」と「茶色」の名詞も、形容詞としても使われるようになりました。
時期としては、江戸時代後期と言われているようです。
- 黄/黄色い
- 茶/茶色い
ただ、「黄」「茶」の場合は、「黄い」「茶い」とはいえず、「黄色い」「茶色い」と「色」をつけなければなりません。
それ以外の色(名詞のみ)
それ以外の色は名詞のみになります。
- 紫(×紫い)
- 緑(×緑い)
- ピンク(?ピンクい)
- オレンジ(×オレンジい)
「紫い花」「緑い花」は言わないですね。
形容詞形と名詞形の使い分け
では、形容詞・名詞どちらの形もある色はどう使い分けられているのでしょうか。
この説明として、以下のような説明があります(酒入他 1991, p. 228)。
- 形容詞→何色かを言うだけのときに使われやすい
- 名詞→いろいろな色の中で、その色を指定するときに用いる
これだけではわかりにくいと思うので、以下でもう少し説明します。
形容詞が使われるとき
基本は、ある物の色について述べるときは、形容詞の方が使われやすいです。
- 青い空に青い海!きれいだね~。(?青の空に青の海)
- 大丈夫?顔が青いよ。 (?顔が青だよ。)
- 白い雲のように風に吹かれて流れていく。(?白の雲のように)
- 彼はいつも赤い顔をしている。(?赤の)
「青の空に青の海!きれいだね~」や「大丈夫?顔が青だよ」など、名詞を使っていうと、違和感を覚える人も多いのではないでしょうか。
「空が青い」「顔が青い」「雲が白い」のように、あるものの色について述べたいときには形容詞が使われやすくなります。
名詞が使えるとき
名詞形が使える場合は、「物の属性としての色」ではなく、いろいろな色の中で「この色」と指定しているときです(酒入他 1991, p. 226)。
- A:「あの鞄、とってくれる?」
B:「どの鞄?」
A:「あの黒い/黒の鞄。」 - ランドセルの色は迷いましたが、本人の強い希望で赤い/赤のランドセルを買いました。
- 白い/白のカーテンは、他の色のカーテンより、部屋が広く見えますよ。
黒い鞄の例の場合、複数ある鞄の中から(そして黒以外の色もある)、「黒い鞄」を選ぶということになります。
この場合「黒の鞄」と名詞形でも、「黒い鞄」と形容詞形でもいうこともできます。
同様に、「赤い/赤のランドセル」や「白い/白のカーテン」の例でも、複数の色のものを比べたうえで、この色を指定するという文脈で使われてます。
このように多様な色の中で何かを指定する際は、形容詞だけでなく、名詞も使えます。
興味のある方向けの追加情報
とはいったものの、指定されていない場合でも、名詞が使える場合もあるとの指摘もあります。
それは、人工的に着色された場合や、自然物であっても典型的な色をしている場合(+文中に対比されるような他の色彩がある場合)です(木下 2005)。
- ベルがオレンジ地に赤の太陽を象ったいかにも太陽の国メキシコのビールといった感じである。見ているだけで楽 しい。
- 雲の質感がすばらしくそうそ う…その色合いって感じで澄みきった空と赤のポストの対比が素敵ですね。
- 血塗られた掲示板。コンクリートの壁 。 コンクリー トの壁 。落書き。赤のスプレー。赤の血。それが血の色だと気づく少年。
- 赤の実をたわわにつけたツルウメモドキは、大好きだった祖父との、半世紀も前の懐かしい思い出を運んでくれる。
(用例はすべて木下(2005)より引用)
上記の例は、特にいろいろな色から「赤」を指定しているわけではないです。ただ、「赤の」と名詞を使っても不自然ではありません。
①の「赤の太陽」や②「赤のポスト」というのは、人工物です。
③の「赤の血」や、④の「赤の実」は自然物ですが、典型的な赤というニュアンスです。
同じ「赤」「青」といってもいろいろな色合いがあります。
「赤い花」といっても、赤のマーカーで塗ったような赤ではなく、ピンクに近いものや紫に近いものもあるでしょうし、同じ花でも花びらによって濃淡が違ったりするでしょう。
形容詞として使う場合は、赤といってもいろいろあることを前提にしているのかもしれません。
名詞として使用する場合は、色合いの差を考えず、一色としてとらえる傾向があるのかもしれません。
また、「顔が赤くなった」「空がどんどん黒くなった」とは言えますが、「顔が赤になった」「空がどんどん黒になった」とは言いません。
一方、「信号が赤になった」「日本入国時の水際対策区分は青になった」とは言えますが、「信号が赤くなった」「日本入国時の水際対策区分は青くなった」とは言いません。
「赤くなる」「黒くなる」というと、どんどん赤味・黒味が増していくというイメージだと思います。
「赤になる」「青になる」というと、瞬時に「赤」「青」という色に切り替わるというイメージになります。
名詞はこのような色合いの変化を許容しづらいのかもしれません。
まとめ
この記事では、日本語の色の品詞について説明しました。まとめると以下のようになります。
まとめると以下のようになります。
- 日本語で形容詞・名詞形の両方を持つのは、青、赤、白、黒、黄色、茶色の6色。それ以外の色は名詞のみ。
- 形容詞形は、何色かを言うだけのときに使われやすい。名詞形は、いろいろな色の中で、その色を指定するときに用いられる。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
参考文献
現場の日本語教師が、実際に受けた質問を、分野ごとに記載しています。説明もわかりやすいです。
日本語の色名についての章があり、詳しく説明しています。日本語学の通説への批判も多いので、日本語学を学んだ人は、違う視点で考えるきっかけにはなると思います。ただ、あまり読みやすい本ではないです。
- 木下りか(2005)「色彩を表す名詞の連体修飾用法 : 「赤のN」と「赤いN」」『大手前大学人文科学部論集』6号,p.29-39