この記事ではフィラーについて紹介します。
フィラーとは
フィラー(filler)とは、「えーっと」「あのー」「ん-」のような、言葉に詰まったときなどにでてくる言葉のことです。
英語だと「um」や「uh」などが入ります。
英語では「filler」や「filled pause」などと言います。fillerは「埋めるもの」「詰めるもの」という意味です。
会話の文脈で使われる場合は、場つなぎや、間を埋めるものという意味になります。
なお、どこまでをフィラーに入れるかは研究によってわかれます。
日本語の場合は、「なんか」や「そうですね」をフィラーに入れることもあります。
フィラーというのは、一見あまり意味がないもののように見えます。
ただ、最近の研究では、フィラーの機能や、フィラーの効果的な使い方など、様々な研究がなされており、フィラーが高く評価されるようになっています。
フィラーの役割
心内の認知行動の解明
まず、フィラーを観察することで、人間の心内の認知行動の解明に役立つと言われています(定延 2010)。
例えば、「えーっと」と「あのー」も、何か考えているときに使われるフィラーです。どちらも相互互換が可能な気がしてしまいます。
ただ、「123足す456は?」とクイズを出されたとき、皆さんならどちらのほうが自然だと思うでしょうか(定延 2010 p. 28より引用)。
- あのー、579
- えーと、579
おそらく、「えーっと、579」を選んだ人が多いのではないでしょうか。
だれか知らないときに話しかけるときは、どうでしょうか(定延 2010 p. 28より引用)。
- えーと、ちょっといいですか。
- あのー、ちょっといいですか。
どちらも使えそうですが、 定延 ・ 田窪 (1995)では、「あのー」のほうが丁寧ではないかと言っています。
つまり、詳しく見ていくと、フィラーによって使い分けがなされているんですね。
「えーと、579」のほうは一般的な計算問題です。一方、「あのー、ちょっといいですか」の場合は自分がこれから話す内容についてです。
このことから、定延(2010)は、「えーと」を使うときには、「何らかの問題」の幅は広く、「あのー」を使うときの「何らかの問題」は自分がこれから話すことばの問題に限られていると分析しています。
つまり、心の中では、一般的な問題と、自分がこれから話す問題の処理というのは、別のものとして認知されているということが示唆されます。
このようにフィラーが、人間の心内の認知行動を知る手がかりになるわけです。
コミュニケーションの手助け
フィラーは、コミュニケーションには無駄なものという考えもあったようですが、円滑なコミュニケーションの手立てをしているともいわれています。
先ほどの「あのー、ちょっといいですか。」の場合、「ちょっといいですか」だけでなく、「あのー」を付け加えることで、相手の注意をひいたり、相手への配慮を示すこともできます。
また、以下の「さー」の例のように、相手にその後にでてくる内容を予測させるような機能もあります。
以下のような文脈で、「さー」の後に、どんな文がくると思うでしょうか(定延 2010, p. 29より引用)。
- X:あ、すいません。このあたりに交番ありませんか?
- Y:さー、________。
空欄のところは「たぶんないですね」「ちょっとわからないですね」などと答えた人が多いのではないでしょうか。
「さー、あの角を曲がったところにありますよ!」と自信をもって答えた人はいないと思います。
つまり、「さー」を言っている時点で、「あからさまにダメ元で考えてみる」や「次の返答の内容は否定的なもの」ということが話し手の中ではわかっているわけです。(定延 2010)
逆にいうと、聞き手のほうも、「さー」を聞いた時点で、なんとなくの会話の方向性も予測できるとも言えます。
まとめ&ご興味のある方は
この記事では、フィラーが何かという点と、フィラーの役割について簡単に紹介しました。
まとめると以下のようになります。
- フィラー(filler)とは、「えーっと」「あのー」「ん-」のような、言葉に詰まったときなどにでてくる言葉のことをいう。
- フィラーは、心内の認知行動の解明やコミュニケーションの手助けなどの役割が指摘されている。
今回の記事でも主に参考にしましたが、日本語におけるフィラーに興味のある方は、定延の本・論文が役に立つと思います。
この本は、従来のコミュニケーション観を批判的に検討した専門書ですが、その中で、フィラーの「さ」や「あ」などについても検討されています。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
- 定延(編)『「うん」と「そう」の言語学』の中の串田の論文を読みました。
- 学習者とネイティブスピーカーのディスコースマーカーの使用の違いを比較したFung &Carter (2007)を読みました。
- ディスコースマーカー(discourse marker)に対する3つのアプローチについて
- 「そうですね」と「そうなんですね」の違いについて
- 日本語の会話授業で使える日本語中上級学習者向けの教材のまとめ