音素とは
日本語では「ばびぶべぼ」の/b/の音と、「ぱぴぷぺぽ」の/p/の音は違うと認識します。
パン[pan]とバン[ban]とは違う意味になります。
このように意味の違いに関わる最小の音声的な単位(庵 2012, p. 19)のことを音素(phoneme)といいます。
ちなみに音素は、/r/、/n/のように、普通 / / で囲んで示します。
もう少し詳しく音素についてみてみるために/r/と/N/という音素について考えてみます。
例①:/r/
まず、/r/という音素です。
日本語の/r/の音素に関係するのは「らりるれろ」ですね。
ただ、人によっては、[r]に近い音で「らりるれろ」といっている人も、[ l ]に近い音で「らりるれろ」を使っている人もいると思います。
ただ、日本語では[r]の音と[ l ]の音は区別せず、同じものとして認識されています。
日本語で、「ら」を[la]といっても、[ra]といっても、意味に違いは出ません。
なので、日本語では意味の違いに関わる音声単位としてあるのは/r/のみです。/l/という音素はありません。
実際は[ l ]で発音することもありますが、それは/r/の中に含まれる発音のバリエーション(異音(allophone))とみなされます。
逆に、英語だと[ l ]と[ r ]は全く違う音です。英語で「rice」を「lice」というと、意味に違いが出てしまいます。
英語だと音素は/l/と/r/の2つに分かれます。
なぜなら、この2つの違いが意味を変えてしまうからです。
例②:/N/
次に、音素の/N/について考えます。
日本語の「ん」の音に当たるものです。
ちなみに日本語の「ん」は撥音で、特殊拍にあたるので、「なにぬねの」の/n/という音素と区別するために、大文字の/N/で記載されます。
この「ん」の音は、実は後に続く音によって発音が変わると言われています。
- さんま[samma]
- さんた [santa]
- さんか [saŋka]
この3つの単語は同じ「ん」と認識されていますが、よく考えて発音すると、実は違う音です。
「さんま」の「ん」を発音するとき、両唇を使って発音していると思います。このときの「ん」は両唇音といって、発音記号では[m]と表記されます。
「さんた」の「ん」を発音するときは、歯茎に舌を当てているのではないでしょうか。このときの「ん」は歯茎音といって、発音記号では[n]と表記されます。
「さんか」のときは、舌の後ろのほうを軟口蓋というところに近づけて発音しているのではと思います。このときの「ん」は軟口蓋音といって[ŋ]と表記されます。
ただ、「え?本当に違うの?」と思う人もいるぐらい、「ん」は同じ「ん」として認識されていると思います。
つまり、日本語では最小の音声的単位として音素/N/が存在します。
特に意味には違いを及ぼさないので、[m][n][ŋ]などは音素/N/の異音になります。
興味のある方は
音素について説明しました。ちなみにこの音素は一般的に音韻論(phonology)の研究対象なります。
ちなみに今回の記事を書くにあたって参考にした本は以下です。
- 庵功雄. 新しい日本語学入門: ことばのしくみを考える. スリーエーネットワーク, 2012.
↑日本語学入門の授業でよく使われている教科書です。