応用言語学とは?

応用言語学とは?

応用言語学とは

応用言語学(applied linguistics)とは、言語学・言語化学の知見を活用しながら、現実の社会の様々な言語に関する課題に対応していく学問です。(白井 2013)

 

「応用」ということばにあるとおり、応用言語学は「言語学を(現実社会に)応用する」という分野です。

そもそもは、言語学の知見を実務者(特に言語教師)に伝え、活用していくことを主眼においていたため(Corder 1973)。過去の応用言語学で研究される分野としては言語教育や第二言語習得などが主流でした。

ただ、近年では、バイリンガリズム、言語政策、言語とテクノロジー、言語とジェンダー、脳科学など様々な分野を含むようになっています。

取り組むテーマにもよりますが、心理学、社会学、人類学等の他の分野の知見も必要になることも多く、学際的な学問ともいえます。

応用言語学の課題の例

言語というのは、人間の生活の中核をなしていると言えます。

ニュースを見るとき、遊ぶとき、歌うとき、友達や家族と話すとき、仕事をするときなどなど人間の活動すべてに言語が関わっています。

普段、自分自身の言語使用について意識しないことの方が多いと思いますが、ある状況では言語について考え、決断していかなければならない場面があるのも事実です。

普段の生活でも以下のような言語に関する問題に直面したことがある人はいるのではないでしょうか。

  • (言語学習のときに)どの教材を使って、どういった方法で学ぶのがいいか。どうすれば発音や会話能力が向上できるのか。
  • (ビジネスやプライベートで)母語が違う人とかかわる場合、どうコミュニケーションをとればいいのか。
  • (子育てをするときに)子どもに将来どんな言語を身に着けてほしいか。バイリンガルになってほしいか。自分の地域の方言を話してほしいか。子どもがろう児だった場合、日本手話(ろう者独自の言語)や日本語対応手話(日本語に手話の単語を1語1語合わせて考えられたもの)をどう学ばせるか。

 

上記は個人の直面する課題の一例でしたが、個人の課題だけでなく、言語に関する社会的な課題も多数あります。

  • 話者が少なくて消滅の危機にある言語についてはどう対応するのがいいか。
  • 英語は今リンガフランカとして世界中で幅広く使われているが、国・地域の中での英語教育はどのようにするのがいいか。
  • 国・地域の中に複数の言語が存在する場合、それぞれの位置づけをどうすればいいか。
  • 移民を受け入れる際に、どの程度その国・地域の言語の習得を課すか。

これはほんの一例ですが、このような言語に関する現実社会の様々な課題に理論的・実証的に取り組んでいくのが応用言語学です。

応用言語学の魅力

カバーする範囲が広い

応用言語学の魅力(でもあり、よくわからなくなるところでもあるの)は、とにかくカバーする範囲が広いことです。

全米応用言語学会(American Association for Applied Linguistics)という、応用言語学の大きな学会がありますが、2023年度の年次大会の募集テーマだけでもこんなにたくさんあります(全米応用言語学会「2023 Call for Proposals」を引用)。

 

理論的背景や研究手法も様々で、よくいえば応用言語学を学ぶことで、多くの知見を得ることができます。

なお、それについては懸念を示す声もあって、Cook (2015)の論文では、「Birds out of Dinosaurs」という比喩を使って現在の応用言語学を表現しています。

鳥は恐竜の子孫だと言われています。「Birds out of Dinosaurs」の意味は、当初の応用言語学の主流分野であった言語教育という「恐竜」はもういなくなっている(いなくなりそう)だけれど、それから多様な新たな分野(「鳥」)が生まれているという意味だそうです。

言語教育は今も応用言語学の研究分野の一つですが、それ以外の様々な分野に細分化しているという意味だと思います。

現実社会と結びついている

応用言語学が現実の社会の様々な言語に関する課題に対応していく学問と言われているので、現実社会と結びついた課題に取り組むことができるのも魅力です。

学問の社会貢献というのはよく言われていることですが、応用言語学はそれが比較的感じやすい分野だと言えるでしょう。

ただ、一方、現実社会と結びついているが故に、その時々の時代の流れに、よくいうと対応できる、悪く言うと流されやすいという側面がなきにしもあらずです。

例えば、「Black Lives Matters」の運動があったときに、応用言語学ではEquity(公正性)やRace(人種)についての議論が多くなされました。

タイムリーな課題に取り組めるのはプラスである一方、「流れ」のようなものがあってどこまで合わせていくのかというのは難しい問題ではあります。

とはいえ、先ほど述べたように、応用言語学と一口にいっても範囲が広い(広すぎる)ので、取り組むテーマによっても変わってくるとは思います。

応用言語学の参考書

「応用言語学」に興味をもった方には、以下の文献がおすすめです。

標準語・方言、言語政策、バイリンガル、手話、外国語教育、言語と文化、政治・メディアのことば、法と言語、言語障害、コンピューターによる情報処理など、応用言語学で扱われるテーマを幅広く紹介しています。

英語文献だと、Guy Cookの2003年の新書が読みやすくて入門書としていいと思います。

この本でも、規範と記述の問題、英語教育、リンガフランカとしての英語、言語とコミュニケーション、言語と文化、批判的応用言語学、コーパス言語学など様々な応用言語学のテーマを紹介しています。

なお、この記事の「応用言語学の課題の例」を書く際に、Cookの本の冒頭部分を参考にしました。

応用言語学の各分野の入門書にご興味のある方は、以下の記事もご覧ください。

他の言語学の諸分野について興味のある方は以下の記事もご覧ください。