SLA(第二言語習得)の歴史的変遷⑥:1990年代以降の社会的アプローチ

SLAとは

SLAとはSecond Language Acquisition(第二言語習得)の略です。1960年頃から活発に研究されるようになった分野です。

このSLAの歴史的変遷について、以下の4つの時代に分けて説明します。

(記事自体は計8記事で記載します。各番号をクリックすると、該当する記事にアクセスできます)

  1. 1960年代・1970年代~:黎明期(
  2. 1980年代~:SLA研究の発展(
  3. 1990年代~:社会的アプローチ・認知的アプローチ(
  4. 2000年代~:多様化の時代(

今回は1990年代についてです。特に社会的アプローチについて説明します。

 

Social Turn

1990年代からは社会的転回と言われるほど、第二言語習得の研究に社会的視点を取り入れる大切さが唱えられるようになります。

この嚆矢となったのは、Firth and Wagnerの論文です。

  • Firth,A. & Wagner, J. (1997) On Discourse, Communication, and (some) Fundamental Concepts in SLA Research”, The Modern Language Journal, 81,285-300.

FirthとWagnerはこの中で、第二言語習得は文法能力の研究に偏重していたこと、そして当たり前のように使われていた「非母語話者」「学習者」「中間言語」といった第二言語習得の概念に疑問を呈します。

例えば、FirthとWagnerが批判した概念の1つに、「母語話者」「非母語話者」というものがあります。

第二言語習得研究だと、「母語話者」が上位、「非母語話者」を下位に置いた上で、「非母語話者」の「母語話者」からのずれを調査することが一般的でしたが、これは母語話者偏向を引き起こすと批判しています。

 

これらを批判したうえで、第二言語習得の研究に社会的視点を取り入れる大切さを述べています。

 

  • Block, David. The Social Turn in Second Language Acquisition. Georgetown University Press, 3240 Prospect Street, NW, Washington, DC, 2003.

↑このDavid Blockの本は有名です。

 

Bonny Nortonの研究のように、「学習者」の主体性やアイデンティティに着目した研究も増えていきます。

  • Norton, Bonny. Identity and language learning: Gender, ethnicity and educational change. Editorial Dunken, 2000.

 

【Lantolf and Pavlenko(2008)の論文】社会文化理論(socio-cultural theory)と発達の最近接領域(zone of proximal development (ZPD))について

↑社会文化理論もこの流れを継ぐものです。

 

まとめ

1990年以降に研究されていたテーマのうち、社会的アプローチについて紹介しました。

次の記事からは1990年以降の認知的アプローチについて書ければと思います。