World EnglishesとKachruの3つの同心円モデルについて

World Englishesとは?

「World Englishes」は「世界の諸英語」という意味です。

「Englishes」と英語が複数になっていますが、これは間違いではありません。

世界には、イギリス英語、アメリカ英語、インド英語、シンガポール英語など様々な英語があり、単なる一つの「英語」が存在するのでなく、複数を「英語」があり、それを認識していこうという意味です。

 

この記事を書く時に参考にしたのは以下の本です。

  • Kachru, Braj B., Yamuna Kachru, and Cecil L. Nelson, eds. The handbook of world Englishes. Malden, MA: Blackwell, pp. 289-312. 

↑World Englishesについて41の論文から構成されています。各英語の変種の歴史的背景や社会言語学的な特徴、英語による文化の変容や、イデオロギーやアイデンティティなど、幅広いトピックを網羅しています。

KachruのWorld Englishesの3つの同心円

  • Kachru, B. B. (1992). Teaching world Englishes. in Kachru, Braj B., ed. The other tongue: English across cultures. University of Illinois Press, 1992.355-366.

World Englishesの議論の嚆矢となったのは、イリノイ大学の研究者Kachruが1985年に提唱した同心円モデル(Three Circles model of World Englishes)です。

Kachruは内円(Inner Circle)、外円(Outer Circle)、拡大円(Expanding Circle)の3つの円に分けて英語を説明しました。

この同心円を通して、英語が普及した歴史的経緯や、英語習得の方法、英語の機能の違いを明らかにしています。

 

内円(Inner Circle)

内円は、英語が「第一言語(English as a native language(ENL))」として使われている社会です。

イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどです。

これらの社会の英語は確立されたもので、英語学習するときも、この内円の英語を学ぶことが多く、いわゆる「英語」の規範となっている社会です。

 

外円(Outer Circle)

外円は、英語圏の国の植民地となった過去があるなどして、英語が「第二言語(English as a second language (ESL))」として使われている社会です。

例えば、インド、ナイジェリア、バングラディッシュ、パキスタン、タンザニア、シンガポール、マレーシアなどがあります。

これらの社会は多言語社会であり、英語は公用語や準公用語としてある程度公的な地位があり、教育や公的手続などで英語が使われることが多いです。

この外円では「シンガポール英語」「インド英語」など独自の英語を発達させています。

拡大円(Expanding Circle)

最後は、「外国語としての英語(English as a foreign language)」を学ぶ社会です。国際語としての英語(international language)ともいわれます。

中国、日本、韓国、ヨーロッパ、インドネシアなどがあげられます。

この地域は独自の規範を作り出すのでなく、他の社会の規範に依拠するところが多いです。つまり、「インド英語」など外円の英語は、英語の変種としてある程度人口に膾炙していますが、「日本英語」や「中国英語」のようなものは、提唱する人がいたとしても広まってはいません。

Kachruのモデルに対する批判

Kachruのモデルについては、この前リンガフランカの記事で紹介したJenkins (2003)などが、「国」や「地域」をもとにした議論で、言語の多様性を考慮していないと批判もしています。

まとめ

World EnglishesについてとKachruの同心円モデルについて説明しました。

この記事を書く時に参考にした「The Handbook of World Englishes」の本を見ていると、このKachruの同心円モデルをもとに、各国・地域での英語の変種の特徴や、英語の普及による変化などを探るものが多いようですね。