パース(Peirce)について
チャールズ・サンダース・パース(Charles Sanders Peirce)は19世紀後半に活躍したアメリカの哲学者です。彼の提唱した記号論(semiotics)は語用論の分野やディスコース分析でも今も非常に影響力があります。
- C.S. パース(2001). 連続性の哲学. 岩波書店
↑この本の内容紹介文で、パースは「アメリカが生んだ最も多才で独創的な哲学者」と紹介されています。
- 池上嘉彦(1984)記号論への招待. 岩波新書
↑記号論については、池上嘉彦がこんな入門書を書いているようです。(まだ読んでいませんが)
今回の記事を書くにあたって参考にしたのは以下の論文です。
- Silverstein, Michael. “Shifters, linguistic categories, and cultural description.” Meaning in anthropology 1 (1976): 1-55.
Icon(アイコン)
パース(Peirce)(1932)の記号分析では、記号(sign)をicon、symbol、indexの3つの種類をわけています。
まず、Iconは、物事をそのまま図式化した記号のことです。
↑例えば、この記号は、財布を図式化したものです。実際のがまぐち財布と似ています。
言語で言えば、「ニャー」とか「ブーブー」などの擬音語が、実際の音をそのまま言語にしたものとしてアイコンに含まれます。
Symbol(シンボル)
Symbolは、物事とは関係なく、恣意的だが、物事を象徴しているものです。
例えば、以下の写真を見てください。
これは「木」の写真ですが、「木」という言葉は、実際の木とは何の関係もありません。「木」でなくて、「桜」と呼んでも「花子」と呼んでもよかったわけです。
現に、言語によって同じものが「tree」になったり「arbre」になったりします。
このように実際の物事とは関係なく、恣意的につけられたものがsymbolです。
言語一般はsymbolに当たります。
Index(インデックス)
Indexは、物事そのものではないが、ある物事を指し示しているものを意味します。
例えば上のようなきれいな夕焼けが見えたとしたら、「明日は晴れだろう」と推測する人が多いのではないでしょうか。
つまり
夕焼け–>晴れ
ということになります。
夕焼けは、「晴れ」そのものではないが、「晴れ」を指し示しているとも言えます。「夕焼け」は「晴れ」のindexです。
またこれは足跡の写真です。
足跡があるということは、誰かが歩いたということを指し示しています。足跡は、「だれかが歩いたこと」のindexといえます。
他の例としては、遠くで「煙」を見た場合、「火」があると考えられます。
「煙」は「火」を指し示しているということで、「火」のindexとなります。
「夕焼け」「足跡」「煙」は、「晴れ」「歩いたこと」「火」とは違います。
ただ、「夕焼け」「足跡」「煙」があると、「晴れ」「歩いたこと」「火」があったこと(または今後存在するだろうこと)が推測されるのです。
まとめ
この記号の分類は、今の多くの応用言語学の議論を知るためには非常に役に立つと思います。
応用言語学(特に語用論関係)の論文では「symbolic」、「semiotic」、「indexicality」などという用語が出てくるのですが、記号について理解していないと、わかりづらい概念になってしまうと思います。