コミュニケーション能力について少し調べてみました。
参考にしたのは、以下の本の第6章です。(p. 110-131)
- Hall, Joan Kelly. Teaching and researching: Language and culture. Routledge, 2013.
コミュニケーション能力とは?
コミュニケーション能力はDell Hymesが1960年代半ばに提唱した概念です。
このころはチョムスキーの生成文法が勢いがある時代でした。チョムスキーは、我々が持っている言語を産出する能力や言語の文法性を判断する能力を「linguistic competence」と呼び、実際に産出されたものを「linguistic performance」とし、このcompetenceとperformanceを分けて考えました。
(例えば、ネイティブスピーカーでも母語で間違えることはよくあります。これは適切な文を産出する能力(competence)はあるが、実際の運用(performance)ではそれができなかったということになります。)
Hymesはこのlinguistic competenceの概念が不十分だとして、「communicative competence」を提唱します。
Hymesは社会的側面にも注目し、普段、話すときには文法的な文を産出するだけではなく、その場、その場に合った適切な発言をする必要もあると言っています。
例えば、初対面の人の名前を聞くときに、「あなたは誰ですか」などいうと、いくら文法的であっても、少し不自然に聞こえます。こういうときは「お名前は?」などいうほうが適切なのであって、こういう社会的場面・状況にもHymesは着目しました。
Hymesのコミュニケーション能力
Hymesはコミュニケーション能力として以下の4つの要素をあげています。
systemic potential
潜在的に可能な言語についての知識・運用力。ここでの潜在的可能な言語というのは、関係代名詞をいくつも使ってとても長い文を作るなども入ります。
appropriateness
状況に応じた適切な言葉についての知識、そして適切な言葉を使う力
probability
実際によく発話される言語についての知識・運用力。潜在的可能な言語だけでなく、ある場面でどういった言葉がよくつかわれるかについての知識や、それを実際に使う力のことだと思います。
feasibility
実際に実現されるかどうかについての知識等。関係代名詞を10個も20個も使って文は作ることはできますが、実際にこういった文が使われることは少ないです。そういった、何が実現可能で、何がそうでないかについての知識等を指すようです。
この4つでもわかるように、Hymesのコミュニケーション能力というのは、生まれもった能力ではなくて、それを使用する力にも焦点を当てているところに特徴があるようです。