Larsen-FreemanのComplexity Theoryについて①

Larsen-Freemanについては何度か紹介しています(詳しくは前回記事①前回記事②前回記事③)。文法教授法やComplexity Theoryで幅広く執筆しています。

Complexity theoryについての本

Complexity theoryはComplex Dynamic Systems Theoryと呼ばれることもあります。

  • Larsen-Freeman, Diane, and Lynne Cameron. Complex systems and applied linguistics. Oxford University Press, 2008.

 

この記事で参考にしたのは以下の動画です。
  • Complexity Theory: Renewing Our Understanding of Language, Learning, and Teaching
2014年3月29日オレゴン州ポートランドに行われたTESOL 2014 International Convention & English Language Expoの基調講演の動画です。(リンクはこちら

 

個人的には書籍より動画のほうがずいぶん分かりやすかったです。

 

Complexity theoryについて

Complexity theoryというのは、Ecologicalな視点(詳しくはこちら)と似ていると思いますが、従来の言語学の枠組みではなかなかとらえきれなかった言語使用の複雑性等に目を向けた理論です。

この動画では、Complexity theoryの以下の5つのキーワードを挙げていました。

  • Complex(複雑性)
    言語は様々な要素から構成されていて、それが関わりあうことで、新たなパターンが生じる。
  • Emergent(出現)
    複雑なシステムの要素が関わりあうことで、自然と新たなものが生じる。
  • Dynamic(ダイナミック)
    状態ではなく、プロセスである。
  • Open(オープン)
    状況に応じて様々なリソースを取り込み、また、使っていく。
  • Adaptive(適応性)
    環境とかかわりあうなかで、その環境に適応して変化していく。

 

Complexity theoryの5つの要素についての例

上の例だとちょっとわかりづらいので、私の解釈ではありますが、上の5つの要素について、日本で学ぶ留学生とホストマザーの例で考えてみます。

 

この2人が日本語で関わりあった場合、日本語母語話者同士が話すのとはまた違った形の会話パターンが生じてくると思われます(complexにあたる部分)。

おそらくですが、ホストマザーは日本語母語話者と話すより、スピードを遅くし、単語も調節するでしょうし、留学生も授業で学ぶいわゆる「標準日本語」とは違い、英語の単語なども混ぜながら話したりもする可能性が高いと思われます。

この生まれてくる会話のパターンとは、自然に出現してくるものです(emergentにあたる部分)。

また、この会話のパターンはずっと一定というわけではなく、留学生の日本語の上達や2人の関係性など、その時々の状況に適応して、変わっていくものだと思われます(adaptiveにあたる部分)。

上記はすべてプロセスであり(dynamicにあたる部分)、英語・日本語・その他の言語など様々なリソースを取り込み、使用する余地がある(openにあたる部分)ということだと思います。

 

Complexity theoryにおける言語使用

Larsen-Freemanがこの講演で引用していたものに、サイエンスライターのJames Gleickの次の言葉がありました。

“The act of playing the game has a way of changing the rules” (James Gleick 1987)
「ゲームをすることは、ルールを変更するということだ」

Larsen-Freemanによると、言語も同じで、言語を使うという行為そのものが、言語体系を変更していくといっていました。

このcomplexity theoryの言語教育上の示唆については以下の記事をご覧ください。

 

言語学習における生態学的(ecological)視点

また、言語学習における生態学的(ecological)視点もComplexity theoryを理解する上で参考になるのではと思います。これについて興味がある方は、以下の記事をご覧ください。