言語学でよく使うモダリティ、ヴォイス、アスペクト、テンスという、述語に関する用語についてまとめておきます。
見解の違いはあるとは思うのですが、私はだいたい以下のように理解しています。
①モダリティ(法性)
話し手の態度を表す文法カテゴリーです。
例えば、下記の例のように述部に文末表現をつけることによって話し手が「彼が来る」という事柄をどうとらえているかを示すことができます。
- 彼は来るだろう
- 彼は来るかもしれない
- 彼は来るはずだ
- 彼は来たほうがいい
「たぶん」「絶対に」などの副詞や、「よ」「ね」などの終助詞もモダリティに含まれます。
モダリティはムードと呼ばれることもあります。ムードとモダリティの違いについては以下の記事をご覧ください。
ムードとモダリティムードとモダリティはどちらも話し手の心的態度を表すものです。研究者によって分類方法や定義は違うのですが、以下のように言われることが多いと思います。 ムードー文法的範疇 モ[…]
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②ヴォイス(態)
ヴォイスは、ある出来事をどの立場から表現するかということに関わる文法カテゴリーです。
例えば以下の文を見てみます。
- AがBをたたく(能動)
- BがAにたたかれる(受身)
- CがAにBをたたかせる(使役)
これらの文は基本は「AがBをたたいた」という事実は同じなのですが、言い方が異なっており、それによって読み手が受ける印象も変わりますし、これらの文が使われる文脈も異なってきます。
出来事をどの立場から表現するかという点に注目したものがヴォイスと言われます(庵 2012, p.98)
ヴォイスの研究といえば、基本は受け身、使役、授受表現(あげる・くれるなど)などが多いと思います。
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③「アスペクト」(相)/「テンス」(時制)
アスペクト
アスペクト(相)はある動作・行動の局面のことです。
例えば同じ「ご飯を食べる」という行為でも以下のようないろいろな局面があります。
- ご飯を食べる(開始)
- ご飯を食べるところだ(開始直前)
- ご飯と食べている(進行)
- ご飯を食べ続ける(継続)
- ご飯を食べた(完了)
こういった開始、進行、継続、完了等の局面のことを「アスペクト」といいます。
テンス
テンス(時制)というのは、過去・未来・現在という時間に関係するものです。
- ご飯を食べる(未来)
- ご飯を食べている(現在)
- ご飯を食べた(過去)
ここでテンスとアスペクトがごっちゃになりがちですが、別のもので、例えば同じ「進行」というアスペクトでも、以下のようにテンスが変わることもあります。
- ご飯を食べている(進行・現在)
- ご飯を食べていた(進行・過去)
同じテンスでもアスペクトが変わることも勿論あります。
- ご飯を食べていた(進行・過去)
- ご飯を食べた(完了・過去)
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- テンス(時制)とは何か?言語による違い、絶対時制と相対時制について
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- 日本語の状態動詞と動態動詞(動作動詞・変化動詞)について
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日本語学の概論書
モダリティ・テンス・アスペクトについてはどの日本語学の概論書でもカバーされています。もし日本語学の入門書に興味のある方はこちらもご覧ください。
日本語学概論学部生向けの日本語学概論で使えそうな本を探してみました。基本的には、日本語学とは何か、音声・音韻、形態論、日本語文法、語用論、社会言語学などを網羅しているものが多いようです。随時更新していこうと思います。[…]
日本語学習者用の文法演習シリーズ
これらの項目を学ぶための日本語の上級学習者用の文法演習シリーズについてはこちらの記事をご覧ください。
モダリティ、ヴォイス、アスペクト、テンスこの前、モダリティ、ヴォイス、アスペクト、テンスについての記事を書きました。[embed]http://www.nihongo-appliedlinguistics.net/wp/?p=1[…]