Ingrid Pillerは今はオーストラリアのマッコーリ大学の教授で、異文化間コミュニケーションなどの分野で有名です。
今調べてみたら、つい最近日本語でも本が出たみたいですね。
- ピラー(2014)「異文化コミュニケーションを問いなおす: ディスコース分析・社会言語学的視点からの考察」創元社
この本は基本は以下の本の翻訳だそうです。
- Piller, I. (2011) Intercultural Communication: A Critical Introduction. Edinburgh: Edinburgh University Press.
英語版のタイトルに「critical」とあるように批判的に異文化コミュニケーションを見ています。
今回読んだのは以下の論文です。
- Piller, I. (2007). Linguistics and intercultural communication. Linguistics and Language Compass 1(3), 208-226.
この論文では従来の「異文化コミュニケーション」研究の問題点として固定的な考えで文化を見ていたり(「○○文化の人はXXするなど一面的)、文化の違いを強調したりしていて、怪しげな学問になっているというようなことを言っていました。
Pillerは以下の2点について議論しています。
①
Pillerは異文化コミュニケーションは「言語」にあまり注目してこなかったといい、ディスコース分析などを利用して、特に複数言語を使ったコミュニケーションをする人がどう言葉を使っているかを見ていく必要があるといっています。文化間の問題といわれているものが実は言語の問題のことも多々あるのではといっています。
その例としてRoberts et al. (2005)の研究を挙げ、ロンドンの医療機関で起こった異文化コミュニケーションでの誤解というのは、健康に関する文化特有の考え(つまりいわゆる「文化の問題」)による違いではなくて、言語の問題だったといっていました。
②
次に「文化の違い」という言葉で不平等や不正義を曖昧にさせていることもあると指摘しています。
その例として「Mail-order bride」ウェブサイトの例を出しています。(ちなみにMail Order Brideは外国人花嫁を探す男性用の婚活サイト(?)のようなものです。)ここでは「フィリピンの女性は男に尽くしてくれて、家庭を大切にし・・」やら、「ロシアの女性は伝統的価値を大切にして、男の夢をかなえてくれ」やら「タイの女性はモラルがあり家族に愛着があり」など言っているのですが、要するに国籍にかかわらず、基本的に同じように描かれているようです。(ちなみにそれに対して、西洋の女性はアグレッシブ、魅力的でないなどという書き方をされているみたいです。)
つまり、これは「妻」という家事・育児、心理的・性的な仕事を、コンピューターやおもちゃの生産をアウトソースするのと同じように、経済的に豊かな国が貧しい国にアウトソースしているのではといっていました。
議論していることは結構最近読んでいる本と似ていたのですが、具体例がなかなかおもしろかったです。